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アーナルデュル・インドリダソン『印』(東京創元社)
アーナルデュル・インドリダソンの『印』を読む(ちなみに「印」と書いて「サイン」と読ませます)。エーレンデュル捜査官シリーズの第六作である。
こんな話。湖のほとりにあるサマーハウスで首を吊っている女性マリアが発見された。発見者はマリアからそのサマーハウスを借りた友人のカレン。マリアは二年前に母を失ってから不安定な状態がずっと続いており、それが原因の自殺だと思われた。しかし、事件を担当したエーレンデュルの元にカレンが現れ、マリアは自殺したのではないと訴える……。

北欧ミステリはとにかく暗い話が多い印象があるけれど、インドリダソンの作品などはその最たるものかもしれない。事件の性質はもちろんだが、その事件が起こった社会の背景、さらには主人公のエーレンデュル自身の問題も相まって、常に暗く冷え冷えとした印象ばかりだ。
なかでも本作は、父と母を失ったマリアがずっとその影を引きずったまま暮らし、夫とようやく安定した暮らしを手に入れたというのに、結局は自殺するという事件である。捜査を続けるエーレンデュルは、そんな彼女が母の死後に霊媒師と会っており、死後の世界を信じるようになっていたこと、また、父親との事件でトラウマを抱えていたことを知る。マリアの自殺した原因は果たしてどこにあったのか。
ただ、マリアの精神状態を突き止めたからといって、それが何の手がかりになるのか、それがマリアにとって救いになるのか。そもそも事件性もない。エーレンデュルも特に現状を変えられるとは思っておらず、そこには自身の置かれた現状にも似た諦めの境地すら感じさせる。だが、それでもエーレンデュルは真実を知りたいと願う。
最後まで正式な事件ではなく、半分オカルト世界に足を突っ込んだような事件で、エーレンデュルは粛々と関係者に会い、話を聞く。およそ普通のミステリで得られるようなカタルシスはほぼない。内容も地味だし、正直、読んでいて楽しいと思うことはほとんどないのだが、読者に訴えかける力は強く、とにかく読まずにはいられない。
そして最後に突きつけられる意外な真相と、更なる哀しみ。だがその哀しみには、なぜか静謐さも感じられ、そこにこそ本作最大の魅力があるのだ。
シリーズ中でも異色の作品だろうが、個人的にはかなり好み。次作は同僚の刑事が主人公らしくいわばスピンオフ的作品のようだが、こちらも期待したい。
こんな話。湖のほとりにあるサマーハウスで首を吊っている女性マリアが発見された。発見者はマリアからそのサマーハウスを借りた友人のカレン。マリアは二年前に母を失ってから不安定な状態がずっと続いており、それが原因の自殺だと思われた。しかし、事件を担当したエーレンデュルの元にカレンが現れ、マリアは自殺したのではないと訴える……。

北欧ミステリはとにかく暗い話が多い印象があるけれど、インドリダソンの作品などはその最たるものかもしれない。事件の性質はもちろんだが、その事件が起こった社会の背景、さらには主人公のエーレンデュル自身の問題も相まって、常に暗く冷え冷えとした印象ばかりだ。
なかでも本作は、父と母を失ったマリアがずっとその影を引きずったまま暮らし、夫とようやく安定した暮らしを手に入れたというのに、結局は自殺するという事件である。捜査を続けるエーレンデュルは、そんな彼女が母の死後に霊媒師と会っており、死後の世界を信じるようになっていたこと、また、父親との事件でトラウマを抱えていたことを知る。マリアの自殺した原因は果たしてどこにあったのか。
ただ、マリアの精神状態を突き止めたからといって、それが何の手がかりになるのか、それがマリアにとって救いになるのか。そもそも事件性もない。エーレンデュルも特に現状を変えられるとは思っておらず、そこには自身の置かれた現状にも似た諦めの境地すら感じさせる。だが、それでもエーレンデュルは真実を知りたいと願う。
最後まで正式な事件ではなく、半分オカルト世界に足を突っ込んだような事件で、エーレンデュルは粛々と関係者に会い、話を聞く。およそ普通のミステリで得られるようなカタルシスはほぼない。内容も地味だし、正直、読んでいて楽しいと思うことはほとんどないのだが、読者に訴えかける力は強く、とにかく読まずにはいられない。
そして最後に突きつけられる意外な真相と、更なる哀しみ。だがその哀しみには、なぜか静謐さも感じられ、そこにこそ本作最大の魅力があるのだ。
シリーズ中でも異色の作品だろうが、個人的にはかなり好み。次作は同僚の刑事が主人公らしくいわばスピンオフ的作品のようだが、こちらも期待したい。
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