- Date: Tue 08 11 2022
- Category: 海外作家 ロード(ジョン)
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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ジョン・ロード『デイヴィッドスン事件』(論創海外ミステリ)
かつて退屈派と揶揄されたジョン・ロード。実際、我が国で訳された作品にもそのようなものがあったことから、遅々として紹介が進まなかったが、近年になってようやく状況が改善されつつあるようで喜ばしい。
私見だが、ロードの作品のキモは論理性にある。情報を集め、それらをもとに推論を重ね、事件を論理的に解明する過程こそが読みどころなのだ。ストーリーやトリック、雰囲気作りなどにはそこまで興味がなかったようで、残念ながらその結果としてとにかく地味な作風になってしまった。それが退屈派と呼ばれた一番の原因だとは思うのだが、我が国においてはこれに加え、単純に初期の傑作と思われる作品がなかなか翻訳されなかったこともあるのだろう。
本日の読了本は、そんな不運な(?)ロードの初期傑作のひとつ『デイヴィッドスン事件』。ようやく真打ち登場といったところだろう。
こんな話。化学装置の設計・製造を手掛けるデイヴィッド社の社長ヘクターは、利益のみを追求し、設計技師として貢献してきたローリーをクビにすることにした。ヒット商品の報酬を彼に支払うのが惜しくなったのである。それを聞いたヘクターの従兄弟で取締役を務めるガイは憤慨する。これまで多大な貢献をしてくれた社員への仕打ちとして酷なだけでなく、会社の将来にとっても大きなマイナスである。また、ローリーの恋人でヘクターの秘書を務めるオルガも激しい怒りを覚えていた。彼女もまた会社を愛するがゆえにヘクターのセクハラに我慢してきた過去があったのだ。
そんなある日、ヘクターは大きな籐製のケースを抱え、列車で郊外の屋敷へ出かけていく。そして駅まで迎えにきたトラックにケースを積み、自らも荷台へ乗車した。ところが屋敷へ到着したとき、ヘクターはすでに息絶えていた。死因は鋭利なものによる刺殺と思われる。警察は秘書のオルガに容疑を絞るが、プリーストリー博士には別の考えがあった……。

なるほど確かにこれはいろいろと見どころがあり、面白い作品だ。なんならジョン・ロード・ファン必読と言ってもよい。
ミステリとしての大きな仕掛けは二つあるのだが、ひとつは割と見抜きやすい。事件が起こる過程がフェアというか丁寧に描写しているので、ミステリに慣れている読者ならある程度は気づいてしまうのではないだろうか。
もうひとつの仕掛けはそちらに比べるとかなり効果的だ。ネタバレになるから詳しくは書かないけれど、要は二重解決のスタイルをとっている。ストーリー三分の二のあたりで早々に犯人を明かしながら、法廷でそれをひっくり返し、ラストで真相を明かすというもの。このひっくり返す仕掛けが巧妙で、その結果がストーリー展開にも寄与していて面白い部分だ。
そして仕掛けとは少し異なるのだけれど、本作にはラストである趣向が施されていることに驚かされる。この点だけでもロード作品としては異色の部類に入るだろうが、ストーリーや読後感にも影響するため、かなり好き嫌いが分かれるところだろう。
ただ、個人的にはぶっちゃけ微妙だなという感じ(苦笑)。終盤に入ってからの犯人のキャラクターには、正直、薄気味悪さしか感じなかったが、大いに共感する人がいても別におかしくはない。言ってみれば、そういうさまざまな受けとり方がある作品だからこそ、本作はロード・ファン必読の一冊なのだ。
私見だが、ロードの作品のキモは論理性にある。情報を集め、それらをもとに推論を重ね、事件を論理的に解明する過程こそが読みどころなのだ。ストーリーやトリック、雰囲気作りなどにはそこまで興味がなかったようで、残念ながらその結果としてとにかく地味な作風になってしまった。それが退屈派と呼ばれた一番の原因だとは思うのだが、我が国においてはこれに加え、単純に初期の傑作と思われる作品がなかなか翻訳されなかったこともあるのだろう。
本日の読了本は、そんな不運な(?)ロードの初期傑作のひとつ『デイヴィッドスン事件』。ようやく真打ち登場といったところだろう。
こんな話。化学装置の設計・製造を手掛けるデイヴィッド社の社長ヘクターは、利益のみを追求し、設計技師として貢献してきたローリーをクビにすることにした。ヒット商品の報酬を彼に支払うのが惜しくなったのである。それを聞いたヘクターの従兄弟で取締役を務めるガイは憤慨する。これまで多大な貢献をしてくれた社員への仕打ちとして酷なだけでなく、会社の将来にとっても大きなマイナスである。また、ローリーの恋人でヘクターの秘書を務めるオルガも激しい怒りを覚えていた。彼女もまた会社を愛するがゆえにヘクターのセクハラに我慢してきた過去があったのだ。
そんなある日、ヘクターは大きな籐製のケースを抱え、列車で郊外の屋敷へ出かけていく。そして駅まで迎えにきたトラックにケースを積み、自らも荷台へ乗車した。ところが屋敷へ到着したとき、ヘクターはすでに息絶えていた。死因は鋭利なものによる刺殺と思われる。警察は秘書のオルガに容疑を絞るが、プリーストリー博士には別の考えがあった……。

なるほど確かにこれはいろいろと見どころがあり、面白い作品だ。なんならジョン・ロード・ファン必読と言ってもよい。
ミステリとしての大きな仕掛けは二つあるのだが、ひとつは割と見抜きやすい。事件が起こる過程がフェアというか丁寧に描写しているので、ミステリに慣れている読者ならある程度は気づいてしまうのではないだろうか。
もうひとつの仕掛けはそちらに比べるとかなり効果的だ。ネタバレになるから詳しくは書かないけれど、要は二重解決のスタイルをとっている。ストーリー三分の二のあたりで早々に犯人を明かしながら、法廷でそれをひっくり返し、ラストで真相を明かすというもの。このひっくり返す仕掛けが巧妙で、その結果がストーリー展開にも寄与していて面白い部分だ。
そして仕掛けとは少し異なるのだけれど、本作にはラストである趣向が施されていることに驚かされる。この点だけでもロード作品としては異色の部類に入るだろうが、ストーリーや読後感にも影響するため、かなり好き嫌いが分かれるところだろう。
ただ、個人的にはぶっちゃけ微妙だなという感じ(苦笑)。終盤に入ってからの犯人のキャラクターには、正直、薄気味悪さしか感じなかったが、大いに共感する人がいても別におかしくはない。言ってみれば、そういうさまざまな受けとり方がある作品だからこそ、本作はロード・ファン必読の一冊なのだ。
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>ジョン・ロードの代表作の一つとして挙げられるのもよくわかるくらいに面白かったけど全ジャンル網羅タイプの年間ミステリベスト10に食い込むのは難しい作品であろうなあ、とも思った
そりゃあ無理でしょう(笑)。私も褒めてはいますが、ランク入りはあくまでも願望であり、応援です。オールタイムベスト級の宮野村子がひっかりもしなかった残念な記憶があるもので(苦笑)。