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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


トマス・H・クック『闇に問いかける男』(文春文庫)

 業界の一大イベントで幕張メッセへ。2週間ほど前にも行ったのだが、やはり規模が桁違い。しかも今回は目玉が目玉なので人も多く、なかなかの盛況である。おそらくここ数年で一番か。かなり歩き疲れたが、やはりこれぐらいの盛り上がりがないと業界全体がやばいもんなぁ。いや、マジで。

 幕張への往復のお供はトマス・H・クックの『闇に問いかける男』。
 公園でキャシーという八歳の少女が殺害された。容疑者は公園で子供たちをスケッチしていた若い浮浪者スモールズ。だが、彼はかたくなに容疑を否認し続け、証拠物件もないまま、ついに釈放まであと11時間というリミットが決定される。コーエンとピアースの両刑事は、スモールズの自白を引き出すべく、最後の尋問に臨む……。
 クックには珍しくタイムリミット型のサスペンスである。だが、途中途中で捜査の過程を回想シーンで読ませるため、残念ながらそれほどサスペンスが効いているとは思えなかった。展開は異なれども、むしろ味わいはいつものクックのそれであり、そういう意味ではクックの読者であればすんなり物語に入り込めるだろう。
 それにしてもクックは上手い。本作は二人の刑事と容疑者のスモールズの他にも主要な人物を数人配し、各人の辛く複雑な過去を語ることによって、暗く澱んだ世界を描き出す。この語りの上手さがクックの武器であり読みどころ。本作も読後はかなりダークな気分にはなるが、どんでん返しも含めて、つくづく読んで良かったと思える一冊。おすすめ。

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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