- Date: Wed 14 12 2022
- Category: 国内作家 坂口安吾
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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坂口安吾「盗まれた一萬円」(『新潮』2023年1月号)
先日の朝日新聞に掲載されて驚いたのが、坂口安吾の幻の探偵小説が見つかったという記事だ。
なんでも週刊新聞「東京週報」の1933年10月15日号に掲載されたが、そのまま埋もれてしまい、これまで全集などにも収録されず、存在も知られないままだったという。
タイトルは「盗まれた一萬円」。安吾がまだデビューまもない頃の作品であり、四百字詰め原稿用紙三十枚ほどの短編らしいが、完全な新資料ということで研究者界隈はざわざわ。ついでに探偵小説ファンもざわざわするわけで、これを読まない手はない。どうやらこれが今月の『新潮』に掲載されるというので、さっそく買って読んでみた次第。
ちなみに近場の書店ではあっという間に売り切れたらしく、どこへ行っても見つからない。面倒なのでこの時点で十二冊在庫があったネット書店で滑り込みゲットしたのだが、いやあちょっと焦った。売れたとはいえ雑誌だから滅多なことでは重版しないだろうし、まことに油断は禁物である。

さて、「盗まれた一萬円」だがこんな話。旧家の主人を往診している若い医者が、いつものように診察を終え、しばらく家人と雑談を交わしているときのこと。主人が慌ててやってきて書斎に置いておいた一萬円がなくなったという。警察に届けようとする三太夫だが、盗んだのは間違いなく家の者しか考えられない。内輪の恥は晒せないと、結局、医者が探偵役として調査することになるが、今度は以前になくなった金剛石が見つかるという出来事が起こる……。
『不連続殺人事件』を遡ること十年以上も前の作品になるのでそこまで期待はしなかったが、探偵小説として見ると、1933年という時代を考慮してもかなり厳しい(苦笑)。なんせ安吾がまだデビューまもない頃であるし、探偵小説をそこまで真剣には考えていなかったのだろう。
ただ、着想として気になるところはいくつかある。本作は探偵役の医者の一人称で始まるが、ラストでは神の視点に変わるところ。友人からのツッコミがあったという体でユーモラスに区切りを入れているところ。関係なそさそうでありそうな二つの事件を発生させているところ。恋愛要素を大きな軸にしているところ、などなど。
狙いは決して悪くない。こうして気になるところをピックアップするとそれなりに面白そうなのだが、この時点ではまだ安吾がきっちりと探偵小説に向き合っていないというか、いいアイデアがないまま無理やり終盤でまとめにいった感じだ。特に一萬円の謎はいただけないのだけれど、その一方で金剛石の謎は(予想しやすいものの)ドラマとしてはそれなりに面白い。
安吾がどこまで探偵小説を意識して書いたかわからないが、正直まだまだ。だが、もしかすると既に従来の探偵小説の流れに反発し、あえて期待はずれの「一萬円の謎」を書いた可能性もないではない。この辺は研究者の方々の調査を待ちたいところである。
なんでも週刊新聞「東京週報」の1933年10月15日号に掲載されたが、そのまま埋もれてしまい、これまで全集などにも収録されず、存在も知られないままだったという。
タイトルは「盗まれた一萬円」。安吾がまだデビューまもない頃の作品であり、四百字詰め原稿用紙三十枚ほどの短編らしいが、完全な新資料ということで研究者界隈はざわざわ。ついでに探偵小説ファンもざわざわするわけで、これを読まない手はない。どうやらこれが今月の『新潮』に掲載されるというので、さっそく買って読んでみた次第。
ちなみに近場の書店ではあっという間に売り切れたらしく、どこへ行っても見つからない。面倒なのでこの時点で十二冊在庫があったネット書店で滑り込みゲットしたのだが、いやあちょっと焦った。売れたとはいえ雑誌だから滅多なことでは重版しないだろうし、まことに油断は禁物である。

さて、「盗まれた一萬円」だがこんな話。旧家の主人を往診している若い医者が、いつものように診察を終え、しばらく家人と雑談を交わしているときのこと。主人が慌ててやってきて書斎に置いておいた一萬円がなくなったという。警察に届けようとする三太夫だが、盗んだのは間違いなく家の者しか考えられない。内輪の恥は晒せないと、結局、医者が探偵役として調査することになるが、今度は以前になくなった金剛石が見つかるという出来事が起こる……。
『不連続殺人事件』を遡ること十年以上も前の作品になるのでそこまで期待はしなかったが、探偵小説として見ると、1933年という時代を考慮してもかなり厳しい(苦笑)。なんせ安吾がまだデビューまもない頃であるし、探偵小説をそこまで真剣には考えていなかったのだろう。
ただ、着想として気になるところはいくつかある。本作は探偵役の医者の一人称で始まるが、ラストでは神の視点に変わるところ。友人からのツッコミがあったという体でユーモラスに区切りを入れているところ。関係なそさそうでありそうな二つの事件を発生させているところ。恋愛要素を大きな軸にしているところ、などなど。
狙いは決して悪くない。こうして気になるところをピックアップするとそれなりに面白そうなのだが、この時点ではまだ安吾がきっちりと探偵小説に向き合っていないというか、いいアイデアがないまま無理やり終盤でまとめにいった感じだ。特に一萬円の謎はいただけないのだけれど、その一方で金剛石の謎は(予想しやすいものの)ドラマとしてはそれなりに面白い。
安吾がどこまで探偵小説を意識して書いたかわからないが、正直まだまだ。だが、もしかすると既に従来の探偵小説の流れに反発し、あえて期待はずれの「一萬円の謎」を書いた可能性もないではない。この辺は研究者の方々の調査を待ちたいところである。
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