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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


ビル・プロンジーニ『パニック』(TBS出版会)

 昨日、久々にネオ・ハードボイルド系の作家を読んだら、本日も無性に読みたくなる。で、手にとったのがビル・プロンジーニの『パニック』。
 プロンジーニといえばもちろん「名無しの探偵」シリーズが有名だが、これはノン・シリーズ。日本では1979年刊行。当時、既に『誘拐』や『失踪』は翻訳されていたのに、ノン・シリーズのせいか当時はほとんど話題にならなかったと記憶する。おかげで今ではプロンジーニの絶版本の中でも入手最難関である。こんな話。

 ジャック・レノックスは妻とのトラブルから警察に追われる羽目になり、とうとう砂漠で立ち往生してしまう。運良くドライブ・インの主人に助けられたのも束の間、主人が殺し屋に殺害され、それを目撃したレノックスまで命を狙われることになる……。

 長らくどこからも文庫化されないので、それほど期待していなかったのだが、どうしてどうして、けっこう楽しめるではないか。
 「逃げる」人生しか送ってこなかった主人公レノックスが、殺し屋から追いつめられることで前向きな生き方に目覚めるという、基本的にはよくあるパターン。だが、これに事件に巻き込まれるヒロイン、そして事件を追う保安官の二人が絡むことで厚みを増す。実はこの二人もそれぞれ振り返りたくない過去を持っており、主人公と同様、事件を通して新たな自分を見出してゆくのだ。
 ページ数が少ないのでやや消化不良なところもあるし、逆に描写過多のところもあるけれど、総じてプロンジーニという作家の技術の高さを感じ取れる一冊だ。

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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