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レックス・スタウト『ネロ・ウルフの事件簿 アーチー・グッドウィン少佐編』(論創海外ミステリ)
レックス・スタウトの中編集『ネロ・ウルフの事件簿 アーチー・グッドウィン少佐編』を読む。ネロ・ウルフものの中篇集だが、「アーチー・グッドウィン少佐編」というサブタイトルが示すように、時は第二次世界大戦の只中であり、アーチーが陸軍の情報部に在籍していた頃の作品を集めている。
いつもの作品とは少々異なる立ち位置のウルフとアーチーではあるが、それがまた新たな面白さを生み、いざ事件が起こるといつのものように二人の絶妙なやりとりで読ませる、非常に楽しい一冊である。

Not Quite Dead Enough「死にそこねた死体」
Booby Trap「ブービートラップ」
Help Wanted, Male「急募、身代わり(ターゲット)」
Before I Die「この世を去る前に」
収録作は以上。
ネロ・ウルフものにはもちろん本格ミステリとしての面白さもあるのだが、それ以上になくてはならないのがコメディの要素と、それを演じるキャラクターの魅力である。ユーモアミステリは他にもさまざまな書き手がいるけれど、ここまで“コメディに寄せた本格”をやっている例は少ないはずだ。
要はバランスの問題なのだが、本格ミステリとして納得できる品質を確保した上で極力コメディ仕立てにするとこ路にネロ・ウルフものの魅力がある。しかもボリューム的には中篇ぐらいがちょうどよい。ウルフものは長篇でも短いものが多く、そういう意味でもは著者もバランスを意識していたのではないだろうか。
どれもまずまず面白く読めるが、やはり巻頭の「死にそこねた死体」がイチ推し。
ウルフに協力を依頼したい陸軍情報部はアーチーにその役を命じるが、久々にウルフを訪ねたアーチーは仰天する。なんと、ウルフが一兵卒として志願すべく、探偵を辞めてダイエットに励んでいたのだ。ひと回り小さくなったウルフは階段を登るわジョギングはするわ、挙句にアーチーのセーターを着ている始末(パツパツだけど)。そこへタイミングよく事件が起こり、アーチーはウルフを探偵に復帰させるべく一計を案じるが…‥…。本筋の事件もさることながら、ウルフとアーチーの現状のインパクトが強すぎて楽しいことこの上ない。
そのほかの作品では、「ブービートラップ」が軍内部での不祥事、「急募、身代わり」は殺害されてしまった依頼人同様に脅迫状を送られたウルフ、「この世を去る前に」がギャングの抗争に巻き込まれたウルフを扱っており、どれも設定が秀逸。こういう面白い設定を中篇でさらっとまとめるところがレックス・スタウトの粋なところだ。
ちなみに「死にそこねた死体」と「ブービートラップ」はミステリ雑誌『EQ』で読んだことがあるが(雑誌掲載時の題は「まだ死にきってはいない」)、単発で読んだときはそこまでシリーズの知識がなかったため、アーチーがなぜ情報部にいるのかよく理解できていなかった。それが今回、戦時下の作品を「アーチー・グッドウィン少佐編」としてまとめてくれたことで非常にわかりやすくなり、大変いい企画であると思う。
ただ、企画はいいのだが、ちょっと不満を付け加えると、巻末のシリーズ著書リストに邦題が一切ないのはかなり不親切だろう。また、収録作の書誌情報がまったくないのも同様である。もう五年前に出版された本なので今さらではあるが、こういうところはもう少し気を配ってくれるとありがたい。
いつもの作品とは少々異なる立ち位置のウルフとアーチーではあるが、それがまた新たな面白さを生み、いざ事件が起こるといつのものように二人の絶妙なやりとりで読ませる、非常に楽しい一冊である。

Not Quite Dead Enough「死にそこねた死体」
Booby Trap「ブービートラップ」
Help Wanted, Male「急募、身代わり(ターゲット)」
Before I Die「この世を去る前に」
収録作は以上。
ネロ・ウルフものにはもちろん本格ミステリとしての面白さもあるのだが、それ以上になくてはならないのがコメディの要素と、それを演じるキャラクターの魅力である。ユーモアミステリは他にもさまざまな書き手がいるけれど、ここまで“コメディに寄せた本格”をやっている例は少ないはずだ。
要はバランスの問題なのだが、本格ミステリとして納得できる品質を確保した上で極力コメディ仕立てにするとこ路にネロ・ウルフものの魅力がある。しかもボリューム的には中篇ぐらいがちょうどよい。ウルフものは長篇でも短いものが多く、そういう意味でもは著者もバランスを意識していたのではないだろうか。
どれもまずまず面白く読めるが、やはり巻頭の「死にそこねた死体」がイチ推し。
ウルフに協力を依頼したい陸軍情報部はアーチーにその役を命じるが、久々にウルフを訪ねたアーチーは仰天する。なんと、ウルフが一兵卒として志願すべく、探偵を辞めてダイエットに励んでいたのだ。ひと回り小さくなったウルフは階段を登るわジョギングはするわ、挙句にアーチーのセーターを着ている始末(パツパツだけど)。そこへタイミングよく事件が起こり、アーチーはウルフを探偵に復帰させるべく一計を案じるが…‥…。本筋の事件もさることながら、ウルフとアーチーの現状のインパクトが強すぎて楽しいことこの上ない。
そのほかの作品では、「ブービートラップ」が軍内部での不祥事、「急募、身代わり」は殺害されてしまった依頼人同様に脅迫状を送られたウルフ、「この世を去る前に」がギャングの抗争に巻き込まれたウルフを扱っており、どれも設定が秀逸。こういう面白い設定を中篇でさらっとまとめるところがレックス・スタウトの粋なところだ。
ちなみに「死にそこねた死体」と「ブービートラップ」はミステリ雑誌『EQ』で読んだことがあるが(雑誌掲載時の題は「まだ死にきってはいない」)、単発で読んだときはそこまでシリーズの知識がなかったため、アーチーがなぜ情報部にいるのかよく理解できていなかった。それが今回、戦時下の作品を「アーチー・グッドウィン少佐編」としてまとめてくれたことで非常にわかりやすくなり、大変いい企画であると思う。
ただ、企画はいいのだが、ちょっと不満を付け加えると、巻末のシリーズ著書リストに邦題が一切ないのはかなり不親切だろう。また、収録作の書誌情報がまったくないのも同様である。もう五年前に出版された本なので今さらではあるが、こういうところはもう少し気を配ってくれるとありがたい。
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