- Date: Mon 12 09 2005
- Category: 国内作家 城昌幸
- Community: テーマ "歴史・時代小説" ジャンル "本・雑誌"
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城昌幸『若殿黄金ぐるま』(桃源社)
城昌幸『若殿黄金ぐるま』読了。先々月あたりに読んだ『若殿行状記』と同じ若殿千代丸シリーズの一冊である。
ちょっとおさらいしておくと、『若殿行状記』は内容から察するにおそらくシリーズの第一作目である。摂州尼ヶ崎四万石の松平遠江守の若殿、千代丸が、操り人形にも等しい大名暮らしを嫌い、夜な夜な江戸の街中へ抜け出し、そこで数々の冒険に出会うというのが大筋。『若殿行状記』では連作短編の形式をとっており、千代丸を慕う元女スリのおちかや岡っ引きの親分重蔵とその子分の金太など、レギュラー陣が固まりつつも、最終話では暴れすぎがたたって、いったん国許へ帰るというところでお終いであった。
設定的には同じ作者による若さま侍シリーズと似ているが、探偵小説の風味がだいぶ薄く、より一般的な時代劇に近い。というのが『若殿行状記』読了時のイメージである。
さて、本作『若殿黄金ぐるま』では、いつのまにか千代丸が江戸へ戻ってきている。夜道をぶらぶら歩いている千代丸に、若い町娘が突然ふくさ包みを押しつけたのが事の始まり。そのふくさ包みを狙って、次々と不審な事件が発生する。一方、塗物師として名高い輪島孫太郎の仕事場で殺人事件が起こり、重蔵と金太が捜査に乗り出す……。
『若殿行状記』ではまだまだ庶民の生活に戸惑っていた千代丸だが、本作ではすっかり手慣れたもので、かなり若さま侍的というか高等遊民的な生活を送っている。事件の方も、塗物師が秘密にしている金鉱の在処をめぐるという伝奇小説ノリで、犯人探しなどいくつかの謎解きも含んでいることから、ますます若さま侍とそっくりだ。『若殿行状記』の印象では、それなりに両者の差があったのに、本作を読む限りでは主人公のキャラクター以外、大きな差は感じられない。
強いて違いを言えば、若さま侍は主人公が登場人物中で最も個性的な存在であるのに対し、若殿千代丸はまっすぐな性格ゆえかやや個性が弱く、かえって脇を固めるレギュラー陣の方がアクが強いことだろうか。したがって若殿シリーズではチームプレーによる捜査という楽しみもあるかもしれない。まだ、そんなに読んでないので、かなり強引な推測だが。
どういう事情で似たような二つのシリーズを書いたのかはわからないが、要素がかなりダブるのは正直いただけない。ただ本作のエンターテインメントとしての水準は高く、若さま侍に負けないだけのものはクリアしているので、十分楽しめることは請け合いである。傑作のひとつといってよいだろう。
なお、本作では千代丸の仲間として、豪傑と亥之吉という二人の人物も登場する。『若殿行状記』のラストで千代丸が国へ帰る設定になっているが、文脈から判断すると、この二人はどうやらその道中で知り合ったようなのである。その辺の事情もおそらくはどこかの作品でまとめられていると思われる。そのうち読めればまた紹介してみたい。
ちょっとおさらいしておくと、『若殿行状記』は内容から察するにおそらくシリーズの第一作目である。摂州尼ヶ崎四万石の松平遠江守の若殿、千代丸が、操り人形にも等しい大名暮らしを嫌い、夜な夜な江戸の街中へ抜け出し、そこで数々の冒険に出会うというのが大筋。『若殿行状記』では連作短編の形式をとっており、千代丸を慕う元女スリのおちかや岡っ引きの親分重蔵とその子分の金太など、レギュラー陣が固まりつつも、最終話では暴れすぎがたたって、いったん国許へ帰るというところでお終いであった。
設定的には同じ作者による若さま侍シリーズと似ているが、探偵小説の風味がだいぶ薄く、より一般的な時代劇に近い。というのが『若殿行状記』読了時のイメージである。
さて、本作『若殿黄金ぐるま』では、いつのまにか千代丸が江戸へ戻ってきている。夜道をぶらぶら歩いている千代丸に、若い町娘が突然ふくさ包みを押しつけたのが事の始まり。そのふくさ包みを狙って、次々と不審な事件が発生する。一方、塗物師として名高い輪島孫太郎の仕事場で殺人事件が起こり、重蔵と金太が捜査に乗り出す……。
『若殿行状記』ではまだまだ庶民の生活に戸惑っていた千代丸だが、本作ではすっかり手慣れたもので、かなり若さま侍的というか高等遊民的な生活を送っている。事件の方も、塗物師が秘密にしている金鉱の在処をめぐるという伝奇小説ノリで、犯人探しなどいくつかの謎解きも含んでいることから、ますます若さま侍とそっくりだ。『若殿行状記』の印象では、それなりに両者の差があったのに、本作を読む限りでは主人公のキャラクター以外、大きな差は感じられない。
強いて違いを言えば、若さま侍は主人公が登場人物中で最も個性的な存在であるのに対し、若殿千代丸はまっすぐな性格ゆえかやや個性が弱く、かえって脇を固めるレギュラー陣の方がアクが強いことだろうか。したがって若殿シリーズではチームプレーによる捜査という楽しみもあるかもしれない。まだ、そんなに読んでないので、かなり強引な推測だが。
どういう事情で似たような二つのシリーズを書いたのかはわからないが、要素がかなりダブるのは正直いただけない。ただ本作のエンターテインメントとしての水準は高く、若さま侍に負けないだけのものはクリアしているので、十分楽しめることは請け合いである。傑作のひとつといってよいだろう。
なお、本作では千代丸の仲間として、豪傑と亥之吉という二人の人物も登場する。『若殿行状記』のラストで千代丸が国へ帰る設定になっているが、文脈から判断すると、この二人はどうやらその道中で知り合ったようなのである。その辺の事情もおそらくはどこかの作品でまとめられていると思われる。そのうち読めればまた紹介してみたい。
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