- Date: Wed 25 01 2023
- Category: 国内作家 笹沢左保
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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笹沢左保『もしもお前が振り向いたら』(講談社文庫)
笹沢左保の『もしもお前が振り向いたら』を読む。作者の作品は改題が多いことでも知られているが、本作もその例に漏れず、初刊行時は『後ろ姿の聖像』という題名だったが、これが『もしもお前が振り向いたら』→『魔の証言』と変更されてきた過去がある。
そして、なんと来月発売される徳間文庫「トクマの特選!」版では、『後ろ姿の聖像~もしもお前が振り向いたら』となるようだ。まさか合わせ技で来るとは(笑)。
まずはストーリー。東京は調布市にある製パン工場の駐車場で、バーの経営者・十津川英子が車の中で絞殺死体となって発見された。英子の男関係から二人の人物の名前があが理、捜査対象はまず彼らに向けられる。ただ、英子を知るベテラン刑事・荒牧だけは、かつて英子が証言した殺人犯のお礼参りではないかと考える。その犯人・沖圭一郎が八年間の刑期を終え、出所したばかりだったからだ。
アリバイを主張する沖圭一郎。だが荒牧とその相棒の御影刑事は捜査の結果、彼のアリバイを崩すことに成功する。しかし、それを予測していたかのように、沖は鉄道へ身投げしてしまう。ともかく一件落着したかに見えた事件だったが……。

悪くない。なんせ初期の作品が傑作揃いなので、正直これぐらいのレベルではもう驚かなくなってきていることも事実だが、それでもこの安定したクオリティ、そして常に何らかの仕掛けを試みている姿勢が本当に素晴らしい。
本作でもアリバイ破りを中心にしたストーリーかと思いきや、中盤で大きくフーダニットに舵を切り、加えて過去のある事件の真相にも迫る。トリック云々には見るべきところはないが、事件全体の構成が見事で、この一見動かしようのない強固な状況を、いかにして警察側が切り崩すのか、そこが本作の肝といえる。
切り崩すとはいっても名探偵などは登場しない。その役目はあくまでごく普通の刑事たちである。足で情報を集め、経験と勘にもものをいわせつつ推理を巡らす。そして情報や関係者の言動の中から僅かな違和感を見出し、そこを突破口にするという流れである。この違和感に対する気づきのシーンが読みどころで、これもまた本格ミステリの魅力のひとつといえるだろう。
娯楽読み物としても手厚いのが著者のいいところだ。当時の中年男性の悲哀をモチーフにしたり、二人の刑事を対比させる見せ方など、実にそつがない。特に主人公の二人の刑事は絵に描いたようなベテランと若手の相棒同士だが、キャラ付けを変にやりすぎないのがいい按配で、やり取りが素直に楽しめる。もちろん今となっては古臭く感じるところもあるけれど、むしろこの全体の雰囲気が昭和を感じさせて個人的には好みである。
なお、ベテラン刑事の娘のエピソード、若い刑事の宝くじのエピソードは、どちらもそこまで必然性がなくちょっと拍子抜け。絡めるならもう少しきちんと掘り下げないとあまり効果的でなく、そこが少し残念だった。
そして、なんと来月発売される徳間文庫「トクマの特選!」版では、『後ろ姿の聖像~もしもお前が振り向いたら』となるようだ。まさか合わせ技で来るとは(笑)。
まずはストーリー。東京は調布市にある製パン工場の駐車場で、バーの経営者・十津川英子が車の中で絞殺死体となって発見された。英子の男関係から二人の人物の名前があが理、捜査対象はまず彼らに向けられる。ただ、英子を知るベテラン刑事・荒牧だけは、かつて英子が証言した殺人犯のお礼参りではないかと考える。その犯人・沖圭一郎が八年間の刑期を終え、出所したばかりだったからだ。
アリバイを主張する沖圭一郎。だが荒牧とその相棒の御影刑事は捜査の結果、彼のアリバイを崩すことに成功する。しかし、それを予測していたかのように、沖は鉄道へ身投げしてしまう。ともかく一件落着したかに見えた事件だったが……。

悪くない。なんせ初期の作品が傑作揃いなので、正直これぐらいのレベルではもう驚かなくなってきていることも事実だが、それでもこの安定したクオリティ、そして常に何らかの仕掛けを試みている姿勢が本当に素晴らしい。
本作でもアリバイ破りを中心にしたストーリーかと思いきや、中盤で大きくフーダニットに舵を切り、加えて過去のある事件の真相にも迫る。トリック云々には見るべきところはないが、事件全体の構成が見事で、この一見動かしようのない強固な状況を、いかにして警察側が切り崩すのか、そこが本作の肝といえる。
切り崩すとはいっても名探偵などは登場しない。その役目はあくまでごく普通の刑事たちである。足で情報を集め、経験と勘にもものをいわせつつ推理を巡らす。そして情報や関係者の言動の中から僅かな違和感を見出し、そこを突破口にするという流れである。この違和感に対する気づきのシーンが読みどころで、これもまた本格ミステリの魅力のひとつといえるだろう。
娯楽読み物としても手厚いのが著者のいいところだ。当時の中年男性の悲哀をモチーフにしたり、二人の刑事を対比させる見せ方など、実にそつがない。特に主人公の二人の刑事は絵に描いたようなベテランと若手の相棒同士だが、キャラ付けを変にやりすぎないのがいい按配で、やり取りが素直に楽しめる。もちろん今となっては古臭く感じるところもあるけれど、むしろこの全体の雰囲気が昭和を感じさせて個人的には好みである。
なお、ベテラン刑事の娘のエピソード、若い刑事の宝くじのエピソードは、どちらもそこまで必然性がなくちょっと拍子抜け。絡めるならもう少しきちんと掘り下げないとあまり効果的でなく、そこが少し残念だった。
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単純に、とり・みきさんが既に出していたので省きました。他にもまだあったのですが、文字数いっぱいだったので削って詰めて、これだけ入れました、というわけです。他にもレムの『大失敗』とかリング・ラードナー『大都会』とか。
あとケネス・フィアリングの『大時計』とかもありましたが、これは読み方が違うので却下ですね。