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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

パミラ・ブランチ『死体狂躁曲』(国書刊行会)

 国書刊行会の〈奇想天外の本棚〉から三冊目となる『死体狂躁曲』を読む。著者はパミラ・ブランチ。
 個人的には初めて読む作家だが、英国のミステリ作家でブラックユーモアに満ちたクライムストーリーが持ち味だという。海外では近年になって再評価が進んでいるとのことだが、いざ読んでみるとこれは確かに面白い。大当たりといっていいだろう。

 まずはストーリー……と行きたいところだが、本作は序盤からストーリーや設定が人を食ったような感じで、そういう意味でのサプライズも大きな魅力である。なので少しでも予備知識を入れたくないという人は、以下、自己責任でお読みください。
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 死体狂躁曲
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 こんなものでよろしいでしょうか。ではストーリー紹介の再開。
 殺人を犯したにもかかわらず、裁判で無罪を勝ち取ったべンジャミン・カン。その前に現れたのは、アスタリスク・クラブの会長のクリフォード・フラッシュだ。
 アスタリスク・クラブとは法廷で無罪となった殺人犯の生活を助ける互助会のようなもの。没後に遺産すべてを寄付する条件で、今後の生活をサポートするという。ただ、会長から会員、運営関係者はすべて著名な殺人犯で構成されており、カンは少し考えさせてほしいという。
 そこでフラッシュはしばらく猶予を与えるため、クラブ本部の隣の下宿をカンに紹介する。ところがその下宿はネズミが大量に出没する家で、大家となる二組の夫婦も芸術家を自称する変人たちであった……。

 ミステリとしての完成度さえあまり問わなければ、これは間違いなく傑作である、オビに「多すぎる囚人、多すぎる証人、多すぎる殺人者、多すぎる死体!!」とあるので、ドタバタ系のユーモア・ミステリかと思っていたのだが、読み進めると、そういう路線とはひと味もふた味も異なることがわかる。
 確かにユーモアミステリだしドタバタもあるにはあるが、根本はブラックな笑いである。ストーリー全般で殺人や死体をおもちゃにすることが多く、まあ極めて不謹慎(苦笑)。
 そもそも殺人者同士が助け合うというのもジョークがきついし、その運営費が会員の遺産だというからタチが悪い。もしかして会員同士で殺し合って運営しているということ?という疑問も当然だ。普通ならそんなクラブに誰が入るか、となるところだが、一度殺人犯の汚名をきてしまうと生きにくくなるのも事実。そこにつけ込むクラブの頭の良さである。
 ところがそんなクラブが隣家の芸術家夫婦たちによって危険に脅かされる。いや、芸術家夫婦たちにそんな悪意はない。彼らは突然降ってわいた死体に右往左往しているだけの話なのだが、彼らも殺人犯以上に非常識なところがあるため、歯車の噛み合わないまま事件はどんどん転がってゆく。
 こういう場合、一般的なミステリなら主人公たちの運命は“転がり落ちてゆく”ものだが、本作では、“転がり落ちて元に戻ってくる”ようなところがあり、とにかく先を予想させないのが見事。

 おまけに(といっては語弊があるが)、ちゃんとミステリとしての落としどころがあるのが素晴らしい。とにかくストーリーが面白いので、殺人犯は結局誰だったのかということすら忘れる始末。そこに訪れるサプライズである。まあ、ロジック云々で解けるような話ではないけれど、サスペンスということであれば問題なし。とにかく異色のサスペンスである。
 作品数も少ないので、残る作品もぜひどこかで翻訳してほしいものだ。


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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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