- Date: Sun 05 03 2023
- Category: 海外作家 ラッセル(エリック・フランク)
- Community: テーマ "SF小説" ジャンル "本・雑誌"
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エリック・フランク・ラッセル『超生命ヴァイトン』(ハヤカワSFシリーズ)
エリック・フランク・ラッセルの『超生命ヴァイトン』を読む。SFミステリ読破企画の一冊ではあるが、SFミステリというよりは、そもそも人類家畜テーマを扱ったSFの古典として有名な作品である。
こんな話。アメリカ政府の渉外係官を務めるビル・グレアムは、過去に長く付き合いがあった科学者の墜落事故を目撃する。その奇妙な状況を調べるうち、世界各地で科学者が次々と変死していることを知る。しかも、そこに共通する事実があることに気づき、グレアムは世界規模で不吉なことが進んでいるのではないかと考える。
情報局の所属となったグレアムは、ついに関係ある科学者の生き残りを見つけ出し、その秘密を聞き出すことに成功する。そこで明らかになったのは、通常の手段では人間の目に見えない、青い球体状の生物「超生命ヴァイトン」の存在であった。
彼らは人の心を読み、その感情を電気エネルギー化して餌にするという生態を持つ。彼らは安定して餌を確保するため、古代から密かに人間を操っては人間を家畜化してきたというのだ……。

これは素晴らしい。個人的には『ゴジラ』をはじめとする良質の怪獣映画と共通するものを堪能できて、大変面白く読むことができた。
映画関連の記事でご存知かと思うが、管理人はミステリのほかに怪獣ものやモンスターものの小説・映画も好物である。それらの何が面白いのかというと、人類を超越した存在に対し、人はどうやって対抗し戦っていくのか、そういう部分にたまらなく惹かれるのである。
単に戦うから面白いのではない。相手の弱点をどのように調べあげ、その弱点をどうやって突くのか、その一連の展開が合理的・論理的であればあるほど面白い。そして、そこがミステリと響き合うところでもある。だからウルトラマンやいわゆる怪獣プロレスよりは、『ウルトラQ』や『シン・ゴジラ』のように、あくまで人類vs怪獣でなくてはならないのだ。
本作に話を戻すと、まさに人類は超生命ヴァイトンを相手に、どうやって生き残るかというストーリーが展開される。もちろん突飛なお話ではあるのだが、本作はきちんと科学的裏付けをとり(あくまで当時の空想の範囲内ではあるが)、論理的に進めていく。主人公が科学者の連続変死事件に気づいていく過程、調査を進めるうちヴァイトンの存在が浮かび上がる過程、対抗手段がないと思われたヴァイトンの弱点が明らかになる過程などなど。謎の解明がストーリーの核を成しているところにSFミステリと言われる所以があり、実にスリリングで魅力的なのだ。
とはいえ本作を以ってSFミステリというのは、少々SFファンに対して申し訳ない感じである(苦笑)。確かにミステリ的要素があり、前半のサスペンスから後半のド派手なアクションに至るまでエンタメ度はすこぶる高いのだが、これらはSFにもミステリにも共通するところである。無理にSFミステリと呼ぶほどではなく、それをいったら先ほどの『シン・ゴジラ』などもみんなSFミステリになってしまうし、ジャンルづけの意味が逆に失われてしまう危うさを感じてしまう。したがって、本作はあくまで良質のB級SFという位置付けでいいのではないだろうか。
先日の記事「SFミステリとは?」で分類みたいなものを挙げたけれど、何を以ってSFミステリとするかはもう少し詰めたいところだ。基本的にはより厳密に、より狭めた定義の方が、ジャンル分けする意味もありそうだ。
本作はただ面白いだけの作品ではなく、考えさせられるところも多かった。何より書かれたのが1943年、第二次世界大戦の真っ只中であるということ。作中でもヴァイトンの操作によって人類同士が世界大戦に突入するという展開になるが、まさにリアルな戦争が本作に大きな影響を与えている(ちなみにアメリカの敵がアジア連合軍というのも何かと暗示的である)。
なぜ人はここまで殺し合わなければならないのか、それがベースにあることは言うまでもないだろう。著者はその原因を人ではなく、ヴァイトンという未知の生命体に求めた。そう考えでもしなければ、人間同士がここまで殺し合うなんて信じられないではないか、ということではないだろうか。
ただ、だからといってヴァイトンばかりが「悪」なのかというと、それもまた難しい。ヴァイトンは人間を家畜化することで生きているのだが、人間もまた牛や豚に同じことをしている。双方の立場があまりにかけ離れているから、その関係性の真実は見えにくい。ヴァイトンの行為にしても人類の行為にしても、実は善も悪もないわけで、より強力なものが上位にくるというだけのことでもある。
極端なことをいえば、ヴァイトンの存在は一種の「神」と見ることもできる。しかし、そういうアプローチをするのは著者の本意ではなかったようで、著者はあえて(だと思うが)ヴァイトンと人類のコンタクトは一切描かず、その問題を取り上げないようにしているのではないかという印象を受けた。
ということで重いテーマを孕みつつも、とりあえずはサスペンスやアクション、ミステリ要素も盛り込んだ痛快なSFである。今となっては古い部分もあるけれど、これは今後も読まれていってほしい作品だ。
こんな話。アメリカ政府の渉外係官を務めるビル・グレアムは、過去に長く付き合いがあった科学者の墜落事故を目撃する。その奇妙な状況を調べるうち、世界各地で科学者が次々と変死していることを知る。しかも、そこに共通する事実があることに気づき、グレアムは世界規模で不吉なことが進んでいるのではないかと考える。
情報局の所属となったグレアムは、ついに関係ある科学者の生き残りを見つけ出し、その秘密を聞き出すことに成功する。そこで明らかになったのは、通常の手段では人間の目に見えない、青い球体状の生物「超生命ヴァイトン」の存在であった。
彼らは人の心を読み、その感情を電気エネルギー化して餌にするという生態を持つ。彼らは安定して餌を確保するため、古代から密かに人間を操っては人間を家畜化してきたというのだ……。

これは素晴らしい。個人的には『ゴジラ』をはじめとする良質の怪獣映画と共通するものを堪能できて、大変面白く読むことができた。
映画関連の記事でご存知かと思うが、管理人はミステリのほかに怪獣ものやモンスターものの小説・映画も好物である。それらの何が面白いのかというと、人類を超越した存在に対し、人はどうやって対抗し戦っていくのか、そういう部分にたまらなく惹かれるのである。
単に戦うから面白いのではない。相手の弱点をどのように調べあげ、その弱点をどうやって突くのか、その一連の展開が合理的・論理的であればあるほど面白い。そして、そこがミステリと響き合うところでもある。だからウルトラマンやいわゆる怪獣プロレスよりは、『ウルトラQ』や『シン・ゴジラ』のように、あくまで人類vs怪獣でなくてはならないのだ。
本作に話を戻すと、まさに人類は超生命ヴァイトンを相手に、どうやって生き残るかというストーリーが展開される。もちろん突飛なお話ではあるのだが、本作はきちんと科学的裏付けをとり(あくまで当時の空想の範囲内ではあるが)、論理的に進めていく。主人公が科学者の連続変死事件に気づいていく過程、調査を進めるうちヴァイトンの存在が浮かび上がる過程、対抗手段がないと思われたヴァイトンの弱点が明らかになる過程などなど。謎の解明がストーリーの核を成しているところにSFミステリと言われる所以があり、実にスリリングで魅力的なのだ。
とはいえ本作を以ってSFミステリというのは、少々SFファンに対して申し訳ない感じである(苦笑)。確かにミステリ的要素があり、前半のサスペンスから後半のド派手なアクションに至るまでエンタメ度はすこぶる高いのだが、これらはSFにもミステリにも共通するところである。無理にSFミステリと呼ぶほどではなく、それをいったら先ほどの『シン・ゴジラ』などもみんなSFミステリになってしまうし、ジャンルづけの意味が逆に失われてしまう危うさを感じてしまう。したがって、本作はあくまで良質のB級SFという位置付けでいいのではないだろうか。
先日の記事「SFミステリとは?」で分類みたいなものを挙げたけれど、何を以ってSFミステリとするかはもう少し詰めたいところだ。基本的にはより厳密に、より狭めた定義の方が、ジャンル分けする意味もありそうだ。
本作はただ面白いだけの作品ではなく、考えさせられるところも多かった。何より書かれたのが1943年、第二次世界大戦の真っ只中であるということ。作中でもヴァイトンの操作によって人類同士が世界大戦に突入するという展開になるが、まさにリアルな戦争が本作に大きな影響を与えている(ちなみにアメリカの敵がアジア連合軍というのも何かと暗示的である)。
なぜ人はここまで殺し合わなければならないのか、それがベースにあることは言うまでもないだろう。著者はその原因を人ではなく、ヴァイトンという未知の生命体に求めた。そう考えでもしなければ、人間同士がここまで殺し合うなんて信じられないではないか、ということではないだろうか。
ただ、だからといってヴァイトンばかりが「悪」なのかというと、それもまた難しい。ヴァイトンは人間を家畜化することで生きているのだが、人間もまた牛や豚に同じことをしている。双方の立場があまりにかけ離れているから、その関係性の真実は見えにくい。ヴァイトンの行為にしても人類の行為にしても、実は善も悪もないわけで、より強力なものが上位にくるというだけのことでもある。
極端なことをいえば、ヴァイトンの存在は一種の「神」と見ることもできる。しかし、そういうアプローチをするのは著者の本意ではなかったようで、著者はあえて(だと思うが)ヴァイトンと人類のコンタクトは一切描かず、その問題を取り上げないようにしているのではないかという印象を受けた。
ということで重いテーマを孕みつつも、とりあえずはサスペンスやアクション、ミステリ要素も盛り込んだ痛快なSFである。今となっては古い部分もあるけれど、これは今後も読まれていってほしい作品だ。
4ケタといっても9000円と1000円ではかなりの差がありますが、後者に近い方でホッとしました。まあ、カバーにはそこまで拘らないので、二ケタの方でもいいのですが、ちょっと調べたら別ルートで三ケタが見つかりましたので、そちらにしようと企んでます。