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梶龍雄『清里高原殺人別荘』(徳間文庫)
一時期は梶龍雄作品も集中して読んでいたが、あまりに入手難が多すぎていつの間にか中断してしまった。もちろんネット上で探せばあるにはあるが、バカみたいにプレミアがついてしまっている。
思えば不遇な作家で、必読級の作品がいくつもあるというのに、生前はそこまでブレイクすることもなく、没後はそれなりに再評価が進んだかと思いきや、すでにほとんどの作品が絶版品切れという状態。おかげで古書価は暴騰。乱歩賞を取った『透明な季節』やそれに続く初期の作品は部数も多いだろうからそれほどでもないが、1983年以降になると大手版元からの出版がガクンと減ったせいか、一気にレア作品だらけとなり、価格もなかなか大変なことになっている。
そんな状況が「トクマの特選!」によって、どうやら改善される方向に向かっているのはありがたい。すでに笹沢左保など傑作がガンガン復刊されているが、このラインナップに梶龍雄も加わったのである。管理人も古書価が高すぎて躊躇していた『清里高原殺人別荘』を、この度ようやく読むことができた。ああ、本当に大枚叩いて買わないでよかった(苦笑)。

さて『清里高原殺人別荘』だが、こんな話である。
シーズンオフで雪積もる清里。その外れにある静かな別荘に、五人の大学生がやってきた。しかし、そこは彼らの物でも、借りた物でもない。彼らはある人物からの連絡を待つための拠点として、持ち主不在のその別荘に、勝手に忍び込んだのである。
ところが彼らの予想しないことが起こる。別荘の持ち主の娘と名乗る女性が滞在していたのである。そればかりか、一人、また一人と何者かによって殺害されてしまう……。
なるほど、これはお見事。
クローズドサークルでの連続殺人を描く、文字どおり「吹雪の山荘もの」ではあるのだが、実はすべてがある目的のための伏線であったという、とんでもない仕掛けが用意されている。まったく思いもよらない方向から真相が明かされるので、その衝撃は半端ではない。そして、前のページを読み返し、その巧みな描写に唸らされる。
だいたいクローズドサークルものは、サスペンスの盛り上げに関しては文句なしの趣向ではあるが、登場人物や舞台などさまざまな要素が限定されるため、意外に真相自体は辿りつきやすいという弱点がある。しかも被害者が増えると同時に容疑者は絞られる一方なので、決してハードルは低くないのだ。
また、ミステリ的な部分だけでなく、極限状態での登場人物の描写に不満が残ることも多い。これは作者の描写力の問題ではあるが、ストーリーに登場人物をはめすぎるきらいがあって、不自然な行動、納得できない行動をする登場人物も少なくないのだ。
本作が素晴らしいのは、そうした弱点も多少は抱えているにせよ(特に人物描写は著者の初期の作品に比べるとかなり辛い)、それらをまったく気にさせない驚くべき真相を用意していることなのだ。
ともあれ、このような傑作が復刊されたことは実に喜ばしい。梶龍雄は次に『若きウェルテルの怪死』が予定されているようだが、個人的には『灰色の季節』もぜひ復刊してほしいところである。
思えば不遇な作家で、必読級の作品がいくつもあるというのに、生前はそこまでブレイクすることもなく、没後はそれなりに再評価が進んだかと思いきや、すでにほとんどの作品が絶版品切れという状態。おかげで古書価は暴騰。乱歩賞を取った『透明な季節』やそれに続く初期の作品は部数も多いだろうからそれほどでもないが、1983年以降になると大手版元からの出版がガクンと減ったせいか、一気にレア作品だらけとなり、価格もなかなか大変なことになっている。
そんな状況が「トクマの特選!」によって、どうやら改善される方向に向かっているのはありがたい。すでに笹沢左保など傑作がガンガン復刊されているが、このラインナップに梶龍雄も加わったのである。管理人も古書価が高すぎて躊躇していた『清里高原殺人別荘』を、この度ようやく読むことができた。ああ、本当に大枚叩いて買わないでよかった(苦笑)。

さて『清里高原殺人別荘』だが、こんな話である。
シーズンオフで雪積もる清里。その外れにある静かな別荘に、五人の大学生がやってきた。しかし、そこは彼らの物でも、借りた物でもない。彼らはある人物からの連絡を待つための拠点として、持ち主不在のその別荘に、勝手に忍び込んだのである。
ところが彼らの予想しないことが起こる。別荘の持ち主の娘と名乗る女性が滞在していたのである。そればかりか、一人、また一人と何者かによって殺害されてしまう……。
なるほど、これはお見事。
クローズドサークルでの連続殺人を描く、文字どおり「吹雪の山荘もの」ではあるのだが、実はすべてがある目的のための伏線であったという、とんでもない仕掛けが用意されている。まったく思いもよらない方向から真相が明かされるので、その衝撃は半端ではない。そして、前のページを読み返し、その巧みな描写に唸らされる。
だいたいクローズドサークルものは、サスペンスの盛り上げに関しては文句なしの趣向ではあるが、登場人物や舞台などさまざまな要素が限定されるため、意外に真相自体は辿りつきやすいという弱点がある。しかも被害者が増えると同時に容疑者は絞られる一方なので、決してハードルは低くないのだ。
また、ミステリ的な部分だけでなく、極限状態での登場人物の描写に不満が残ることも多い。これは作者の描写力の問題ではあるが、ストーリーに登場人物をはめすぎるきらいがあって、不自然な行動、納得できない行動をする登場人物も少なくないのだ。
本作が素晴らしいのは、そうした弱点も多少は抱えているにせよ(特に人物描写は著者の初期の作品に比べるとかなり辛い)、それらをまったく気にさせない驚くべき真相を用意していることなのだ。
ともあれ、このような傑作が復刊されたことは実に喜ばしい。梶龍雄は次に『若きウェルテルの怪死』が予定されているようだが、個人的には『灰色の季節』もぜひ復刊してほしいところである。
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Comments
Edit
あの右斜め上85度から襲ってくるような脳天かかと落とし的真相にはもうやられました。
いろいろと語りたいけれど、語るとそれだけで小説が台無しになるので黙ってなくてはいかんというのがまことに歯がゆいであります。読んだ奴だけで集まった場ででもないと感想を言えない、うーむ、ミステリとは歯がゆい文学形式でありますなあ。
Posted at 10:45 on 03 09, 2023 by ポール・ブリッツ
ポール・ブリッツさん
そういえば『透明な季節』の感想をアップした際に、清里をおすすめしてくれましたよね。あれから10年あまり、ようやく読めて満足です。
Posted at 22:58 on 03 09, 2023 by sugata