- Date: Tue 14 03 2023
- Category: 海外作家 ブルース(レオ)
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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レオ・ブルース『ブレッシントン海岸の死』(ROM叢書)
レオ・ブルースの『ブレッシントン海岸の死』を読む。同じくROM叢書から刊行された『死者の靴』のあとがきで、訳者の小林晋氏からブルース長篇の完全紹介を目指すという力強い宣言があったけれども、その最新刊である。
まずはストーリー。歴史教師のキャロラス・ディーンは従兄弟の女優フェイ・ディーンからの手紙を受け取った。殺人事件に巻き込まれたので助けてほしいというのだ。
手紙によると、フェイはが早朝の海岸を散歩中、招待されていたミステリ作家リリアン・ボマージャーの死体を発見したという。しかも砂浜で首から上だけを出して埋められるという異様な状態で。
ディーンが調査を始めると、すぐにリリアンの暴君ぶりが露わになり、家族や使用人は容疑者だらけとなってゆく……。

実は本作は、本国でもそれほど世評が高くない作品だという。一読すると、確かにいろいろ粗の多い作品であることはわかる。そのなかでも特にガッカリするのが、強いインパクトを残す冒頭の被害者の姿の謎が、実にあっさりと流されていることであろう。
その真相はあまりに腰砕けであり、しかもなぜそこに行き着いたのか論理的な説明もほぼない。いつもの著者なら、ここでとんでもない解釈を持ってくるのだが、本作にはそのキレがないのが残念だ。
とはいえメインとなる趣向はなかなか実験的であり、他の作家で有名な作品もあるものの、その狙いは悪くない。むしろブルースなりの味付けがなされていて、他の本格作家の凡作よりはよほど楽しめる。
ちなみに書かれた時期としては1950年代であり、作品的には『ハイキャッスル屋敷の死』と『ジャックは絞首台に!』の間に位置する。決してスランプの時期ではなく、むしろ安定して作品を発表していた時期である。
ただ、この頃のレオ・ブルースがどれだけ売れていたのかは知らないが、もしかするとビジネス面での苦悩がいろいろあって、調子を崩してしまったのではないだろうか。
というのも本作には、そういうことを暗示させるような描写がちらほら目につくのである。たとえば登場人物の一人がキャロラスに対して、「事件が中だるみを起こしている」「容疑者をずっと尋問し続ける古臭い探偵小説」「もっとサスペンスが必要」などと言ってみたり、ラストの謎解きシーンでは「犯人の名前を隠して説明されてもわかりにくい」と自虐的なギャグを入れるようなところもある。
さらにはゴリンジャー校長がエッセイ(自伝?)を出版するという話にキャロラスがギョッとするエピソードが出てくるのだが、これもけっこう暗示的で、つまらない作品が売れるという風潮に対するやっかみみたいなものが感じられるエピソードではないだろうか。
まあ、勝手な想像でしかないけれど、本作はそういう著者の迷いみたいなものが入り込み、その結果、いつもの実力を発揮できなかった作品ともいえる。レオ・ブルース・ファンとしてはやはり楽しい一冊であった。
まずはストーリー。歴史教師のキャロラス・ディーンは従兄弟の女優フェイ・ディーンからの手紙を受け取った。殺人事件に巻き込まれたので助けてほしいというのだ。
手紙によると、フェイはが早朝の海岸を散歩中、招待されていたミステリ作家リリアン・ボマージャーの死体を発見したという。しかも砂浜で首から上だけを出して埋められるという異様な状態で。
ディーンが調査を始めると、すぐにリリアンの暴君ぶりが露わになり、家族や使用人は容疑者だらけとなってゆく……。

実は本作は、本国でもそれほど世評が高くない作品だという。一読すると、確かにいろいろ粗の多い作品であることはわかる。そのなかでも特にガッカリするのが、強いインパクトを残す冒頭の被害者の姿の謎が、実にあっさりと流されていることであろう。
その真相はあまりに腰砕けであり、しかもなぜそこに行き着いたのか論理的な説明もほぼない。いつもの著者なら、ここでとんでもない解釈を持ってくるのだが、本作にはそのキレがないのが残念だ。
とはいえメインとなる趣向はなかなか実験的であり、他の作家で有名な作品もあるものの、その狙いは悪くない。むしろブルースなりの味付けがなされていて、他の本格作家の凡作よりはよほど楽しめる。
ちなみに書かれた時期としては1950年代であり、作品的には『ハイキャッスル屋敷の死』と『ジャックは絞首台に!』の間に位置する。決してスランプの時期ではなく、むしろ安定して作品を発表していた時期である。
ただ、この頃のレオ・ブルースがどれだけ売れていたのかは知らないが、もしかするとビジネス面での苦悩がいろいろあって、調子を崩してしまったのではないだろうか。
というのも本作には、そういうことを暗示させるような描写がちらほら目につくのである。たとえば登場人物の一人がキャロラスに対して、「事件が中だるみを起こしている」「容疑者をずっと尋問し続ける古臭い探偵小説」「もっとサスペンスが必要」などと言ってみたり、ラストの謎解きシーンでは「犯人の名前を隠して説明されてもわかりにくい」と自虐的なギャグを入れるようなところもある。
さらにはゴリンジャー校長がエッセイ(自伝?)を出版するという話にキャロラスがギョッとするエピソードが出てくるのだが、これもけっこう暗示的で、つまらない作品が売れるという風潮に対するやっかみみたいなものが感じられるエピソードではないだろうか。
まあ、勝手な想像でしかないけれど、本作はそういう著者の迷いみたいなものが入り込み、その結果、いつもの実力を発揮できなかった作品ともいえる。レオ・ブルース・ファンとしてはやはり楽しい一冊であった。
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