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日影丈吉『応家の人々』(徳間文庫)
日影丈吉『応家の人々』読了。言わずとしれた代表作だが、これが初読。飾ってある全集が泣きますな、これでは。
こんな話。台湾がまだ日本の植民地だった時代。久我中尉はある三角関係を巡る殺人事件の調査を命令される。それは単なる殺人の捜査ではなく、その裏に潜むやもしれぬ思想犯を追求するためだった。久我は三角関係の中心人物でもある未亡人、珊希に近づいて捜査を進めていくが、やがて珊希を取り巻く男が次々と死んでいく事実に直面する。だがいつしか久我も、珊希の妖しい魅力に惹かれていくのだった……。
ううむ、こういう書き方は嫌だが、文学的な探偵小説とはこういうものをいうのだろう。以前に読んだ『孤独の罠』もそうだが、ミステリ的な興味と人間ドラマが見事に渾然一体となり、これに作者ならではの味付けが加えられて何ともいえない味わいを見せている。占領下の台湾といってもこちらの知識は乏しいし、当時の雰囲気などわかるはずもないのだが、少なくとも本書の舞台から漂う空気は十分に感じることができるのである。独特のけだるさというか、湿気というか、たまらない憂鬱感が全体を覆い、悪女の性、家族のしがらみ、男女の因縁などを醸し出している。その手際のなんと見事なことか。加えて主人公のスッキリしない「立ち位置」も絶妙。これが熱血漢やクールな男性では、この味は出ないであろう。
ある意味、本作は幻想小説であり、作者は読者を鬱なる桃源郷へと誘っているのだ。
こんな話。台湾がまだ日本の植民地だった時代。久我中尉はある三角関係を巡る殺人事件の調査を命令される。それは単なる殺人の捜査ではなく、その裏に潜むやもしれぬ思想犯を追求するためだった。久我は三角関係の中心人物でもある未亡人、珊希に近づいて捜査を進めていくが、やがて珊希を取り巻く男が次々と死んでいく事実に直面する。だがいつしか久我も、珊希の妖しい魅力に惹かれていくのだった……。
ううむ、こういう書き方は嫌だが、文学的な探偵小説とはこういうものをいうのだろう。以前に読んだ『孤独の罠』もそうだが、ミステリ的な興味と人間ドラマが見事に渾然一体となり、これに作者ならではの味付けが加えられて何ともいえない味わいを見せている。占領下の台湾といってもこちらの知識は乏しいし、当時の雰囲気などわかるはずもないのだが、少なくとも本書の舞台から漂う空気は十分に感じることができるのである。独特のけだるさというか、湿気というか、たまらない憂鬱感が全体を覆い、悪女の性、家族のしがらみ、男女の因縁などを醸し出している。その手際のなんと見事なことか。加えて主人公のスッキリしない「立ち位置」も絶妙。これが熱血漢やクールな男性では、この味は出ないであろう。
ある意味、本作は幻想小説であり、作者は読者を鬱なる桃源郷へと誘っているのだ。
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