fc2ブログ
探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


ジョエル・タウンズリー・ロジャーズ『恐ろしく奇妙な夜』(国書刊行会)

 国書刊行会で再開された〈奇想天外の本棚〉だが、当初に発表されていた第一期作品でもとりわけ気になっていたのが本書、ジョエル・タウンズリー・ロジャーズの『恐ろしく奇妙な夜』である。理由はいうまでもなく、いったい何を読ませてくれるのだろうという作品への期待から。
 古くは『赤い右手』、最近では同人出版ながら『死の隠れ鬼』という中短篇集があり、どちらも面白いという言葉ぐらいでは済まされない、非常に個性的な探偵小説であった。これは果たして著者の狙いなのか、それとも無意識に書き殴った結果なのか、どうにも判然としないところがあるのだが、その混沌としたところがとてつもなく魅力的だったのだ。

 恐ろしく奇妙な夜

The Little Doll Says Die!「人形は死を告げる」
The Hanging Rope「つなわたりの密室」
The Murderer「殺人者」
Kiliing Time「殺しの時間」
Two Deaths Have I「わたしはふたつの死に憑かれ」
Night of Horror「恐ろしく奇妙な夜」

 収録作は以上。
 本書は日本オリジナル編集の中短篇集で、本格ミステリありサスペンスありSFありのバラエティ豊かなラインナップ。これまでの邦訳作品同様、ロジャーズならではの味わいがどの作品にも濃厚で、実に面白く読むことができた。
 とにかく最初は何が起こっているのかわからない。多くの作品は事件の只中から始まって、主人公が誰かもはっきりしないし、その主人公が被害者なのか探偵なのか犯人なのか、そういうこともわかりにくい。おまけに時系列の入れ替え、思わせぶりな描写、恐怖を煽るような描写を多用するハイテンションな文体などなどが、さらに混乱をエスカレートさせる印象である。
 しかし、これらが結局ロジャーズの武器であり、読者を惑わすためのの一手なのだと、本書を読んで改めて思うようになった。元々のアイデアがまず秀逸なのだが、ロジャーズはそれをどういう形で見せればより効果的なのかを考えており、その結果としての数々の演出なのだ。
 ただ、そういう仕掛けや狙い、演出は良いのだが、実際にそれを文章に落とし込む技術が荒っぽい。それがわかりにくさに直結しているのではないか。とはいえ、そのわかりにくさがまた変な魅力になっているのが困ったところである(笑)。
 以下、作品ごとに簡単なコメント。

 「人形は死を告げる」は戦争から帰還した夫が、妻の行方を探す物語。土産に持って帰ってきた人形が暗示するものは何か、見つかりそうで見つからない妻に、主人公は気楽なものだが、読者としては不吉なイメージしかなく、そうなれば著者の思うツボである。

 「つなわたりの密室」は以前にアンソロジー『密室殺人コレクション』で既読だが、ロジャーズのクセがわかった今回の方が全然楽しめた。シンプルな作りにしてもそれなりに面白い作品なのだが、とにかくストーリーの捻り方が強烈で、そのため序盤のわかりにくさが酷く、評価の分かれるところだろう。個人的には嫌いではない。

 「殺人者」もなかなかいい。妻の死体の前で茫然とする主人公。その場を去ってしまおうとするが、そこへちょうど現れたのが保安官補が主人公に質問するというシンプル設定。普通に考えれば、主人公が犯人で警部補からどうやって逃げるかというサスペンスを連想するところである。しかし、心理や事実を明確にしないまま会話が展開するため、主人公が犯人なのか犯人でないのか読者の混乱は必至。果たして……というところで披露するオチがお見事。

 「殺しの時間」は作家志望の青年の物語。犯罪小説の雑誌編集長宛に原稿を送ったところ、その編集長が現れたが……というストーリーはありがちだが、編集長が現れる前のアパートでのトラブルがミソ。ちょっと偶然要素が強すぎるので、コントみたいな印象を受けてしまうのが惜しい。

 「わたしはふたつの死に憑かれ」は珍しくも本格ミステリの味わい。ラジオ局でミステリドラマの脚本を手がける主人公は、上司に呼び出され、今日の放送には投稿されたものを使うと通達される。その原稿を読んだ主人公は驚愕した。その内容が、自分が子供の頃に遭遇した事件とそっくりだったからである。事件を思い出した主人公は。原稿にどこか違和感を抱くのだが……。

 「恐ろしく奇妙な夜」はSFモンスターもの。災害全体を描かず、一市民のエピソードだけで切り取る手は最近でこそ多くなったような気がするが、当時はけっこう珍しかったのではないか。物語性は低いけれども、独特の迫力はこのスタイルならではだろう。

関連記事

Comments

Edit

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

Posted at 02:20 on 04 06, 2023  by

Edit

くさのまさん

宿題ってなんでしたっけ?(笑)
すいません、全く覚えていないのですが……。

それはともかく私もロジャーズはもっと読みたいですね。面白そうな作品だけなんていわず、この人の全貌が知りたいです。

あと「拍手」についてですが、こちらでは何も変更していないので、やっぱりブラウザとかの影響ではないでしょうか。

Posted at 20:45 on 04 05, 2023  by sugata

Edit

もっと読みたい。

 個人的には『人形は死を告げる』『わたしはふたつの死に憑かれ』が面白かったです。とにかく話がどこへどう転がるかが分からないのがこの作者の魅力だと思うので、逆に本格とかわかっていると、その枠から出ない(と思って読む)ので魅力が翳ると言いますか(あの長編は良い意味で裏切っていましたが)。なのでこういうジャンル不問の短編集を出して欲しいですね。
 以前に頂いた宿題をほっぽっていたのでコメントもいささかしづらかったのですが(笑)、とりあえず12月まで遡って記事を確認したところ、みんな拍手が押せるようになっておりました。修正されましたか? それとも私の勘違いでしたでしょうか?

Posted at 15:26 on 04 05, 2023  by くさのま

« »

09 2023
SUN MON TUE WED THU FRI SAT
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

ツリーカテゴリー