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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


ロス・マクドナルド『一瞬の敵』(ハヤカワミステリ)

 ロス・マクドナルドの『一瞬の敵』を読む。ロスマク読破計画一歩前進。これでラスト四冊、創元の短篇集を入れると残り五冊となった。
 まずはストーリーから。

 私立探偵リュウ・アーチャーの元に舞い込んだ新たな依頼は、銀行でPR部長を務めるキース・セバスチャンからのものだった。十七歳になる娘のサンディが不良の青年デイヴィと共に姿をくらませたというのだ、しかもショットガンと銃弾も無くなっているという。
 アーチャーはサンディの友人から、彼女が「死にたい」と漏らしていたこと、デイヴィの住んでいるところを聞き出し、さっそくデイヴィの家へ向かうが……。

 一瞬の敵

 これは濃いなあ。アーチャー・シリーズの後期作品をより煮詰めたような作品で、当時アメリカで大きな問題となっていたBroken Familyをテーマに、夫婦関係や父と子、母と子、家族諸々の複雑な人間関係を徹底的にえげつなく描いている。
 しかも、それぞれの家族問題には裏があり、本格顔負けのトリッキーな展開と意外な真相。ネタがてんこ盛りだが、そのくせボリュームはいつもより少ないせいで、いろいろな面で味つけが濃くなり、結果として疾走感や酩酊感が半端ないのである。

 ただ、正直なところ、少しやりすぎ、詰め込みすぎの感は否めない。『さむけ』『縞模様の霊柩車』あたりの代表作に比べると、完成度でやや落ちる。特にデイヴィは中心人物の一人だが、過去の事件は興味深いのに人間的な掘り下げが甘く、ちょっと物足りなさが残る。
 その分、といってはなんだが、サンディについては力が入っており、これは著者のプライベートな部分、すなわち娘の問題がストレートに反映されているからだろう。サンディの体験は非常に痛ましいものだが、そんな娘をどう扱っていいのか途方に暮れるばかりの父キースに対し、サンディが最後に僅かながら見せる仕草に、微かな希望を見出せて少し安心する。

 ということで、ロスマク後期の特徴をいつも以上に煮詰めた本作。欠点も多少あるけれど、好きな人にはたまらない一作といえるだろう。



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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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