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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


連城三紀彦『黒真珠 恋愛推理レアコレクション』(中公文庫)

 連城三紀彦の短篇集『黒真珠 恋愛推理レアコレクション』を読む。解説には「これがおそらく連城三紀彦最後の新刊」と書かれており、実際、書籍化されていない作品はもう短編がいくつかぐらいしか残っていないようだ。そういう状況で刊行される短篇集だから、本書もおそらく落穂拾い的なものかと思っていたが、これがどうしてどうして、十分に楽しめる短篇集であった。

 黒真珠

I 部
「黒真珠」
「過剰防衛」
「裁かれる女」
「紫の車」
「ひとつ蘭」
「紙の別れ」
「媚薬」

II 部
「片思い」
「花のない葉」
「洗い張り」
「絹婚式」
「白い言葉」
「帰り道」
「初恋」

 収録作は以上。I部は短篇、II部は掌篇という二部構成になっており、初期作品から晩年の作品までまんべんなく採られている。ただ、せっかくそういう作品が採られているなら、単純に表年代順に並べた方が作品の変遷などが理解しやすくなって良かったのではないかな。短篇・掌篇という二部構成が悪いとは言わないが、この分け方にあまり意味があるように思えなかった。

 まあ、編集方針はともかくとして、各作品は先に書いたように楽しめるものばかりである。連城三紀彦はミステリで作家生活をスタートさせ、途中で恋愛小説に移って一般層にもブレイクし、最後はまたミステリに戻ってきた。とはいえ連城のミステリはそもそも恋愛を扱ったものが多く、男女の恋愛模様の機微などが鮮やかに描写され、それがミステリ要素と綺麗に融合し、抒情性の豊かなミステリとして結実している印象である。
 逆に恋愛小説として書かれた作品の場合でも、直接的な犯罪を描いていないというだけで、普通にミステリとして読んでも楽しめるものが多く、あまりジャンルで敬遠したりする必要はないだろう。まあ管理人の読んだ範囲での感想なので、もしかするとバリバリの恋愛小説があるかもしれないが、それはそれとして(苦笑)。

 とりあえず短編中心のI部の作品だけ、簡単に感想をまとめておこう。
 まずは表題作の「黒真珠」。不倫中の女性が、不倫相手の妻から「夫と結婚してほしい」という奇妙な要求を告げられる。ドロドロした関係の上で繰り広げられる心理戦、それをサラッと美しくまとめる描写力がさすがである。
 「過剰防衛」は異常心理ものといってもよい。掌篇だが、その内容は長篇にだって膨らませられるほどの内容で、著者の気前の良さに感心する。
 「裁かれる女」は傑作。売れない女性弁護士のもとに突然現れ、殺人を告白して弁護を依頼する男。彼は女性弁護士の学生時代の同級生でもあったのだが……いわゆる密室劇で、男の狙いが何なのか、高まる興味をかわすかのように最後は背負い投げ〜、という逸品。そのまま一幕ものの芝居にしたら面白そう。
 「紫の車」は奇妙な味のサスペンス。不倫相手と旅行中の夫が、妻の交通事故死の連絡を受ける。妻は自分の不倫を疑っていたのではという疑念があった夫だが……。死んだ配偶者の知られざる一面を描く小説はいろいろあるが、著者ならではの構図の反転が妙。
 「ひとつ蘭」も傑作。旅館の若女将の前に現れたみすぼらしい年配の女性客。彼女は若女将の姑でもある女将の知り合いのようだったが、ただならぬ因縁があるようで、女将と会えずにほっとしているようだった。そして、いつしか若女将の悩みを聞き出していくのだが……。ほぼほぼ普通小説の体だが、この味わいでミステリ的なサプライズを用意してくるのが見事としかいいようがない。
 なお、「紙の別れ」だけは、この「ひとつ蘭」を読んだ後に読むように。最初は混乱するかもしれないが、この順番で読まないとちょっともったいない。
 「媚薬」は著連城作品らしさもありながら、ちょっと俗っぽい話。これはテレビだラマ向きか。

 それにしても、男性なのにこれだけ女性の側から艶っぽい不倫話ばかりを描き、それでいてトリッキーな話にまとめる技術には、毎度のことながら感嘆するしかない。II部の作品も短いながら楽しめるものばかりで、これはやはりおすすめである。

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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