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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


ミニオン・G・エバハート『夜間病棟』(論創海外ミステリ)

 ミニオン・G・エバハートの『夜間病棟』を読む。いわゆるHIBK派を代表する作家で、個人的にはあまり得意なジャンルではないのだけれど、エバハートだけは例外。いつも渋々読み始めて、終わってみると意外に満足していることが多い。
 サスペンスは元々お手のものだし、それに加えてプロットや設定が本格並にしっかりしている点がいいのだろう。そもそもHIBK派はやりすぎというか、サスペンスやゴシックロマンに注力しすぎて必然性やリアリティ、論理性などを蔑ろにするところがあるのだが、エバハートはそういう欠点があまり見られないのもいい。

 夜間病棟

 さて、本作はエバハートのデビュー長編であり、かつオリアリー警部&サラ・キート看護婦が活躍するシリーズの第一作でもある。
 まずはストーリー。セント・アン病院の18号室で一人の患者が死亡した。死因はモルヒネの過剰摂取だったが、モルヒネ投与の指示は医師から出ておらず、それを実行した看護婦もいない。さらに不審な点として、患者が受けていたラジウム治療に使われていたラジウムが見当たらない。同時にレゼニー院長の姿が事件当日から見当たらない。まさか院長が……という疑惑が浮上する間もなく、翌日に新たな遺体が発見される。

 前半はすこぶる快調。夜の病院という絶好の舞台を用意して、ゴシックロマン的な雰囲気を盛り上げる。登場人物も同僚の医師や看護婦だけでは無理があるとみたか、院長の従姉妹や友人といったところにクセのある人物を配し、人間関係に混乱をもたらしてくれるなど、デビュー作らしからぬ盛り上げ方である。
 ただ、残念ながら中盤ぐらいからはやや失速気味だ。特に気になるのは、登場人物たちが思わせぶりな行動をとりすぎること。HIBK派の悪いところで、本作でもストーリーを盛り上げたいがために、登場人物に不必要な行動をとらせてしまうのが目に付く。用務員のヒギンズの件なんかはその筆頭で、こういうエピソードが入るだけで個人的には白けてしまう。院長の友人ゲインセイもヒギンズほどではないにせよ大根役者といってよい。
 そんな中で清涼剤的な意味合いを持つのが、オリアリー警部とサラ・キート看護婦である。お互いに敬意をもった二人の会話シーンは知的なイメージで、それが要所要所に入ることで全体をきっちり締めている感じである。

 さすがにデビュー作ということもあって欠点も目立ち、そこまで高く評価できる作品ではないけれど、夜間病棟というイメージは効いているし、雰囲気は悪くない。オリアリー警部とサラ・キートが初めて出会う作品でもあるので、エバハートのファンなら、というところか。

 ちなみにラジウムの扱いについては、現在の基準では噴飯物だろうが、本作が書かれた1929年にはラジウムの放射能障害などがそこまで明らかになっていないため、仕方ないところ。むしろラジウムが宝石並に貴重な鉱石として高額で売買されていた事実に驚いてしまった。

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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