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クリフォード・アッシュダウン『ロムニー・プリングルの冒険』(ヒラヤマ探偵文庫)
クリフォード・アッシュダウンの短篇集『ロムニー・プリングルの冒険』を読む。クリフォード・アッシュダウンは、ソーンダイク博士で有名なR・オースティン・フリーマンと医者仲間のジョン・ジェームズ・ピトケアンの合作用ペンネームだ。フリーマンがまだソーンダイク博士ものも書いてない駆け出し作家の頃、ピトケアンと組んで書いたのが、本作『ロムニー・プリングルの冒険』である。
ちなみに二人がどのような執筆体制だったかは明らかになっていないが、作家としては駆け出しながら、すでにノンフィクションや小説も書いていたフリーマンが執筆役だった可能性は高そうだ。解説の戸川安宣氏によると、キャラの作りや筆致もフリーマンに近いという。
収録作は以下のとおり。シリーズ二冊の短篇集を丸ごと収録した、つまりロムニー・プリングル完全版である。
The Assyrian Rejuvenator「アッシリアの回春剤」
The Foreign Office Despatch「外務省報告書」
The Chicago Heiress「シカゴの女相続人」
The Lizard's Scale「トカゲのうろこ」
The Paste Diamonds「偽ダイヤモンド」
The Kailyard Novel「マハラジャの宝石」
The Submarine Boat「潜水艦」
The Kimberley Fugitive「キンバリーの逃亡者」
The Silk Worms of Florence「フローレンスの蚕」
The Box of Specie「黄金の箱」
The Silver Ingots「銀のインゴット」
The House of Detention「拘置所」

ロムニー・プリングル・シリーズはいわゆる怪盗もの。当時流行っていた怪盗ラッフルズ的なものを、という編集者の注文で書かれたものらしい。初掲載は1902年のことで、ルパンやジゴマ、ファントマなど、フランスの怪盗ものはまだ生まれておらず、またそういったフランスの怪人的なキャラクターと違って、ロムニー・プリンガルはいかにも英国的な落ち着いた紳士である。ただ、決して上流階級というわけではないし、快活な性格もあって、非常に親しみやすいキャラクターといえる。
また、ルパンのように「がっつり大物を盗みにいく」というよりは、偶然巻き込まれた事件に介入して、他の悪党から油揚げをさらうというストーリーが多い。こういった設定がいかにもフリーマンらしいというか、安心して楽しめるところに通じるのだろう。
ちなみに「偶然巻き込まれた」とは書いたが、プリングルはそういった美味しい事件が転がっていないか、常にアンテナを張っている。少しでも奇妙な状況があればとりあえず聞き耳を立てたり、盗み見をしたり、場合によっては尾行したりもするのだが、こういうところはやはり犯罪者なのだなあと、ちょっと複雑な気持ちになってしまう(苦笑)。
なお、書かれた時代ゆえミステリとしてはそこまでハイレベルなものは期待してはいけない。キャラクターやストーリーは悪くないので、軽い読み物として楽しむぐらいがちょどよいのだろう。
とりあえず、こうして幻の短篇集が読めたことに感謝である。
※ひとつ気がついたが、著者名のクリフォード・アッシュダウンだが、戸川氏の解説や訳者解説では「アッシュダウン」で、カバーや奥付けでは「アシュダウン」と表記されている。また、著者の片割れ、ジョン・ジェームズ・ピトケアンは、解説では「ジェイムズ」、訳者解説では「ジェームズ」となっている。本書は同人出版なので、こういうこともあろうかなと思うけれど、著者名のばらつきはさすがにに気になってしまった。もし重版することがあれば、その際には直していただければ。
ちなみに二人がどのような執筆体制だったかは明らかになっていないが、作家としては駆け出しながら、すでにノンフィクションや小説も書いていたフリーマンが執筆役だった可能性は高そうだ。解説の戸川安宣氏によると、キャラの作りや筆致もフリーマンに近いという。
収録作は以下のとおり。シリーズ二冊の短篇集を丸ごと収録した、つまりロムニー・プリングル完全版である。
The Assyrian Rejuvenator「アッシリアの回春剤」
The Foreign Office Despatch「外務省報告書」
The Chicago Heiress「シカゴの女相続人」
The Lizard's Scale「トカゲのうろこ」
The Paste Diamonds「偽ダイヤモンド」
The Kailyard Novel「マハラジャの宝石」
The Submarine Boat「潜水艦」
The Kimberley Fugitive「キンバリーの逃亡者」
The Silk Worms of Florence「フローレンスの蚕」
The Box of Specie「黄金の箱」
The Silver Ingots「銀のインゴット」
The House of Detention「拘置所」

ロムニー・プリングル・シリーズはいわゆる怪盗もの。当時流行っていた怪盗ラッフルズ的なものを、という編集者の注文で書かれたものらしい。初掲載は1902年のことで、ルパンやジゴマ、ファントマなど、フランスの怪盗ものはまだ生まれておらず、またそういったフランスの怪人的なキャラクターと違って、ロムニー・プリンガルはいかにも英国的な落ち着いた紳士である。ただ、決して上流階級というわけではないし、快活な性格もあって、非常に親しみやすいキャラクターといえる。
また、ルパンのように「がっつり大物を盗みにいく」というよりは、偶然巻き込まれた事件に介入して、他の悪党から油揚げをさらうというストーリーが多い。こういった設定がいかにもフリーマンらしいというか、安心して楽しめるところに通じるのだろう。
ちなみに「偶然巻き込まれた」とは書いたが、プリングルはそういった美味しい事件が転がっていないか、常にアンテナを張っている。少しでも奇妙な状況があればとりあえず聞き耳を立てたり、盗み見をしたり、場合によっては尾行したりもするのだが、こういうところはやはり犯罪者なのだなあと、ちょっと複雑な気持ちになってしまう(苦笑)。
なお、書かれた時代ゆえミステリとしてはそこまでハイレベルなものは期待してはいけない。キャラクターやストーリーは悪くないので、軽い読み物として楽しむぐらいがちょどよいのだろう。
とりあえず、こうして幻の短篇集が読めたことに感謝である。
※ひとつ気がついたが、著者名のクリフォード・アッシュダウンだが、戸川氏の解説や訳者解説では「アッシュダウン」で、カバーや奥付けでは「アシュダウン」と表記されている。また、著者の片割れ、ジョン・ジェームズ・ピトケアンは、解説では「ジェイムズ」、訳者解説では「ジェームズ」となっている。本書は同人出版なので、こういうこともあろうかなと思うけれど、著者名のばらつきはさすがにに気になってしまった。もし重版することがあれば、その際には直していただければ。
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