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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


泡坂妻夫『妖盗S79号』(河出文庫)

 泡坂妻夫の短篇集『妖盗S79号』を読む。狙った獲物は必ず盗み出す、神出鬼没の怪盗S79号。そしてS79号を追う警視庁の専従捜査班の対決を描いた連作短篇を一冊にまとめたものだ。
 収録作は以下のとおり。

「第一話 ルビーは火」
「第二話 生きていた化石」
「第三話 サファイアの空」
「第四話 庚申丸異聞(こうしんまるいぶん」
「第五話 黄色いヤグルマソウ」
「第六話 メビウス美術館」
「第七話 癸酉(みずのととり)組一二九五三七番」
「第八話 黒鷺(くろさぎ)の茶碗」
「第九話 南畝(なんぽ)の幽霊」
「第十話 檜毛寺(ひもうじ)の観音像」
「第十一話 S79号の逮捕」
「第十二話 東郷警視の花道」

 妖盗S79号

 怪盗ものといえば怪盗ルパンをはじめとし、レスター・リースにサイモン・テンプラー、怪人二十面相に怪盗ニックなどなど枚挙にいとまがない。彼らに共通するのは何といっても鮮やかな盗みのテクニックであろう。厳重に保管された金庫や衆人環視の場から、いかにしてお宝を頂戴するのか。つまりハウダニットとしての面白さがそこにあるのだ。怪盗ものは往々にしてキャラクターの設定ばかりが注目されるけれど、本格ミステリとしての要素がなければ、味気ないものになるのは間違いないだろう。

 そこでS79号シリーズだが、さすが泡坂妻夫の手によるものだけに、ただの怪盗ものには終わっていない。本書は十二話構成だが、しっかりとラストで完結しているのがミソ。これは解説で法月倫太郎氏も触れているが、それぞれの短篇はもちろん独立して読めるものの、全十二話を通して一つのストーリーと見ることもでき、そこにはしっかり起承転結も見られるのである。
 怪盗ものといえばその正体はなかなか明らかにならないものだが、本作ではとりわけ正体が不明である。S79号が登場しているかどうかも匂わせる程度であり、その代わりに狂言回しを務めるのが警視庁の東郷警部とその部下・二宮刑事の二人。主人公はむしろこの二人といってもよく、直情的な東郷と資産家の息子である二宮のコンビによる掛け合いが面白い。役割的にはS79号の引き立て役、ルパン三世における銭形警部のような役回りではあるけれど、実はこの二人もかなりの名探偵で偏りはあるが知識も豊富だ。二人の推理も冴えて、いいところまではS79号を追い詰めるが、それを上回るS79号の恐ろしさよ。お約束とはいえ実に楽しい。

 盗みのテクニック、ハウダニットについても、泡坂妻夫だけにそつがない。とはいえ似たようなパターンが増えるせいか、大技連発とはいかなかったようだ。かなりバリエーションは用意されているけれど、全体的に小粒で、正直、亜愛一郎シリーズあたりに比べると分が悪いだろう。ただ、それはトリック云々においてであり、トータルの面白さでは決して遜色ないので念のため。
 個人的なお気に入りは、「庚申丸異聞」、「メビウス美術館」あたりだが、ラストの作品「第十二話 東郷警視の花道」については別格。S79号の正体含め、シリーズの一切合切の伏線を回収して感動的ですらある。

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Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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