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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


エドワード・D・ホック『フランケンシュタインの工場』(国書刊行会)

 かつてハヤカワ文庫から、エドワード・D・ホックのシリーズもののSFミステリ『コンピューター検察局』『コンピューター404の殺人』が刊行された。もう四十年以上も前のことである。未来の地球を舞台に、コンピュータ検察局の捜査員、カール・クレイダーとアール・ジャジーンの活躍を描いた物語であった。
 特にシリーズ一作目となる『コンピューター検察局』は、SFの部分が古臭い感じは受けたもののミステリとしては悪くない作品で、ホックの芸の広さを感じさせたものだ。しかし次の『コンピューター404の殺人』がいけなかった。こちらは出来としては悪く、それがセールスにも繋がったか、三作目の作品が残っているにもかかわらず紹介はそれっきりになってしまった。
 そんなことがあったため、その幻のコンピュータ検察局・シリーズの三作目『フランケンシュタインの工場』が、国書刊行会の〈奇想天外の本棚〉の一冊として発売されるという告知を見たときは驚いた。ハヤカワ文庫『コンピューター404の殺人』が発売されてから、なんと四十年以上を経ての完結編である。

※なお、ハヤカワ文庫版では「コンピューター」、〈奇想天外の本棚〉版では「コンピュータ」と表記されていますが、当ブログ内では現在の主流でもある「コンピュータ」表記といたします。ただし、ハヤカワ文庫版のタイトルに関しては、そのまま「コンピューター」とさせていただきます。

 こんな話。メキシコのバハ・カリフォルニア沖に浮かぶ孤島で、国際低温工学研究所の代表ローレンス・ホッブズ博士がある計画を進めていた。それは冷凍保存してある複数の遺体から必要な臓器を取り出し、人間を蘇生させるという研究であった。いわば現代版フランケンシュタインである。
 一方、コンピュータをはじめとする最新テクノロジーに関係する犯罪に対処するコンピュータ検察局では、国際低温工学研究所の活動に疑念を抱いていた。そこで副局長アール・ジャジーンを撮影技師と偽らせ、潜入捜査をさせることにした。
 蘇生手術が行われる当日、島にいるのはホッブズ博士と研究所の後援者エミリー、六人の医者や科学者たち、料理人、アールの十名であった。ところが手術が完了した翌日、後援者のエミリーが行方不明となり、さらには外部との連絡手段が次々と断たれてゆく。そして遂に最初の悲劇が起こる……。

 フランケンシュタインの工場

 本作を読みたかった理由は、単にシリーズで唯一残された未訳作品だったこともあるのだが、何よりその内容である。アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』を彷彿とさせるシチュエーションに加え、その舞台となる孤島で行われているのが、『フランケンシュタイン』の実験そのもの。この二大小説をどのように合体させたのか、期待するなという方が無理な話だ。
 ただ、その一方で、ホックの作品なのにここまで邦訳されてこなかったのは、やはり相当出来が悪かったのかという不安もあるわけで、ここまで先入観が混沌とすることはなかなか珍しい(笑)。

 で、実際に読んでみた結果だが。決して酷い出来というわけではなく、それなりに面白く読めて思わず胸を撫で下ろしたというのが正直なところである(笑)。

 なんだか奥歯にものの挟まったような感想で恐縮だが、少し細かく見ていくと、やはり欠点が多いのである。特にSF部分の弱さは相変わらずだ。
 いろいろ調べては書いているのだろうが、やはりアシモフはじめSFプロパーの方々の書くSFミステリに比べると、科学的な描写が浅いのは否めない。特に人体蘇生手術は本作の肝であるにもかかわらず、医学的な説明や描写はほぼないし、フランク(蘇生手術の患者)が蘇生した後までモンスター扱いなのも気に入らない。フランクの心理まで描写しろとはいえないが、小説としてそこに焦点を当てることは重要で、『フランケンシュタイン』テーマの核心でもあるのだから、ここをさらっと逃げているのはいただけない。
 また、ある人物のトリックはかなり無理があるのだけれど、ここもSF的な処理を頑張ればクリアできるはずなのに残念ながらそういうアイデアはなかったようだ。さらに、科学の発達した未来を舞台にしている割には、通信技術が今とほとんど同じというか、この舞台設定でインフラについてはほぼ現代レベルというのも残念なところ。
 基本的には掘り下げが浅いのだろう。テーマや重要な部分にこだわりをみせず、さらっと流してしまっているという印象なのである。おそらくホックもあえて重くならないようにしているとは思うのだが、これだけの美味しい素材を使っていてそれはあまりにもったいない。というか作家として、もう少し志を高くもってほしいところである。

 とまあ、ここまでケチをつけておいて何だが、ストーリーは面白いのだ。それこそ『そして誰もいなくなった』のように一人ずつ殺されてくという展開はサスペンス十分。しかも『そして〜』では見ず知らずの十人だったが、本作では各自にけっこうな因縁や秘密があり、それが徐々に暴露され、その度に容疑者が変わるのである。容疑者といえば、手術後に意識不明でいるフランクもまた容疑者の一人というのも面白い。
 本格ミステリとしても諸々のネタを詰め込んでおり(強力なものはないけれども)、そこは素直に評価したい。

 ということでリーダビリティは高いけれども、SFミステリとしてはテーマの掘り下げの弱さ、作り込みの甘さが惜しまれるといったところか。せめてリアルタイムで読んでいたら、また印象が変わったかもしれないのだが、まあ原作発表から五十年近く経った今でもそれなりに面白く読めるのだから、むしろ幸せな方かもしれない。
 ともあれシリーズ全作がこうして読めるようになっただけでも個人的にはありがたい一冊であった(といってもハヤカワ文庫の方は品切れなので、これを機に復刊すりゃいいのにね)。


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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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