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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


笹沢左保『泡の女』(徳間文庫)

 笹沢左保の『泡の女』を読む。初期の代表作の一つとして知られ、『本格ミステリ・フラッシュバック』でも紹介されている一作である。

 まずはストーリー。東京地方統計局に勤務する木塚夏子のもとに、突然、茨城県警から連絡が入った。夏子の父、重四郎が大洗海岸で縊死体となって発見されたという。夏子は職場結婚した夫の達也を呼び出し、二人で茨城県へ向かった。
 ところが後日、重四郎の死因に不審なところがあり、達也が殺人容疑をかけられてしまう。婿入りし、性格もおとなしい達也がそんなことをするはずがない。重四郎との関係もまったく悪くはなかった。夏子は達也の無罪を晴らすべく独力で調査を開始するが、残された時間は三日間しかなかった……。

 泡の女

 表面的には巻き込まれ型のサスペンスであり、ストーリーの大半はヒロインの地道な調査である。素人なのでもちろんその進め方は拙いが、クロフツもかくやというぐらいの根気強さで、事実をひとつずつ掘り起こしていく。調査の進捗にしたがってヒロインの心理が揺れ動く、その様が読みどころであろう。
 ただ、笹沢左保にしては全体的に少々単調なストーリーで、そこまで物語には入り込めない。昭和の時代に何かと叩かれていたお役所の事なかれ主義を利用してタイムリミットにするなど、工夫はされているのだが、先の欠点をカバーするところまでには至っていない。
 
 ただ、真相はお見事である。プロットも比較的シンプルながら、ヒロインの視点で進むため、きっちりとカモフラージュする手立てがなされている。ヒロイン夏子の調査が延々と描かれてきたのも、この真相をより活かすためかとようやく腑に落ちる。
 そして何より印象的なラストシーン。その瞬間は爽快だが、ヒロインの運命を思うと虚しい思いしか残らず、これはこれで笹沢左保らしいところである。

 ミステリとしてもドラマとしても、構成にクセのある作品。それだけに笹沢左保の中級者以上におすすめの一作といえるだろう。

※ちなみに管理人は徳間文庫で読んだのだが、Amazonのリンクを貼ろうとしたら、ちょうど「有栖川有栖選 必読! Selection」の一冊として新装版が出るではないですか。ナイスタイミングではあるので、これから読もうとされる方はぜひそちらでどうぞ。

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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