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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


エルビラ・ナバロ『兎の島』(国書刊行会)

 日本では初紹介となるエルビラ・ナバロの短篇集『兎の島』を読む。珍しいことにスペイン産の幻想怪奇小説で、著者はスペイン語圏でも注目される存在らしい。まずは収録作。

「ヘラルドの手紙」
「ストリキニーネ」
「兎の島」
「後戻り」
「パリ近郊」
「ミオトラグス」
「地獄様式建築に関する覚書」
「最上階の部屋」
「メモリアル」
「歯茎」
「占い師」

 兎の島

 異なる文化圏で書かれた小説はもともと興味深いものが多いけれど、想像力がものをいう幻想怪奇小説においては特に惹かれるものが多い。本書に収録されている作品も然り。
 版元では〈スパニッシュ・ホラー〉という謳い文句を使っているが、正直、「ホラー」という感じはあまりしない。個人的にはホラーというと、もっと直接的な怖さをイメージするのだが、どちらかというと、静かな作品が多い。
 現代の作品なので、パソコンやSNS等の小道具が使われていたり、あるいは社会問題を示唆するような作品もあるのだが、登場人物たちは推しなべてそういう日常の中で、いつの間にかそれと気付かずに非日常の扉をノックしている印象を受ける。現実と異世界の中間で行き来するような、そんな不安定な状態を見せてくれるのである。
 そこには現代で生きることの不安や恐怖を投影しているようなところもあり、読んでいると言いようのない気持ち悪さに包まれてくる。

 たとえば表題作の「兎の島」は、街中を流れる川の島(中洲のような小さい島か)に、兎を飼い始めた男の話である。男はカヌーである島にテントを張るが、気になったのは鳥の妙な鳴き声である。そこで鳥を追い出そうと二十羽の兎を島に放す。ところが兎は男の予想もしなかった行動を行うようになり……というもの。
 この男の設定も「似非発明家」と自称する妙なキャラクターなのだが、その存在こそが日常からすでに一歩踏み外している。その男がさらに兎を飼うことで、非日常への扉をノックしてしまう。男の行動は淡々と描かれているが、兎を放つ行為はまるで社会実験のようにも感じられ、その行為自体がすでに不気味なものに思われ、やがてくるであろう悲劇を予感させる。

 「ストリキニーネ」は耳たぶから肢が話生えてきた女性の話。彼女の特異な状況と日々が淡々と語られ、驚愕のラストを迎える。本書中では比較中ホラーっぽい作品で、著者がこういうテクニックもしっかり持っていることを証明している。

 「最上階の部屋」はホテルで働く貧しいメイドの話。ホテルの屋根裏部屋にに住み込みで働くが、そのうち妙な夢を見るようになる。それは彼女自身ではなく、ホテルを訪れる他人の嫁であった。やがて彼女はそれに対処するために―。
 将来の当てもない貧しい少女の体験する幻想譚は、それだけで胸が苦しくなるほどだが、これもさまざまな深読みをさせる物語である。

 他の作品も読み応えがあるものばかり。描写こそ静かだが、飛ばし読みを許さない迫力があり、これは満足できる一冊であった。
 なお、装丁も非常に美しく、紙の本ならではの喜びも味わえる。


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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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