fc2ブログ
探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


トム・ミード『死と奇術師』(ハヤカワミステリ)

 トム・ミードの『死と奇術師』を読む。初めて読む作家だが、イギリスの新人作家で、本書はデビュー作にあたる。何より惹かれたのが黄金時代の本格ミステリに対するオマージュ作品という点だ。
 作品の舞台も1936年のロンドンであり、内容も怪奇趣味やマジック、密室講義と古き良き時代の探偵小説趣味に溢れているという具合。おまけにアラ懐かしや、袋とじの解決編という趣向まで盛り込まれている。

 まずはストーリー。舞台は1936年のロンドン。ポムグラニット劇場では、舞台劇『死の女』の初日夜公演を控え、独特の空気に包まれていた。興行主や俳優たちはもちろん、今回の舞台の要となる仕掛けを担当した奇術師のスペクターも仕掛けのチェックに余念がない。やがて初日の舞台が幕を開けた。
 その翌日、ロンドンで精神科医を開業する高名なリーズ博士が殺害された。現場は密室状態で、目撃者も凶器も見つからない。警察は奇術師のスペクターに捜査協力を依頼し、患者を一人ずつ調べていくが、そこには舞台劇『死の女』の主演女優デラの名前もあった……。

 死と奇術師

 上でも書いたように、本作は黄金時代の本格ミステリに対するオマージュであり、その内容は怪奇趣味やマジック、密室など探偵小説趣味に溢れ、特にジョン・ディクスン・カーやクレイトン・ロースンあたりを彷彿とさせる内容である。
 その試み自体は悪くないし、ある程度成功しているように思う。一つひとつの小道具だけではなく、キャラクターや世界観の設定など全体的にアプローチしているので、変にバランスを崩すことなく基本的には違和感なく読むことができる。オマージュなどやられると、えてして腰砕けや過剰な作品が多いので、こういうバランス感覚は貴重だろう。

 さて、そういった表面的なネタはOKとして、中身の方はどうか。リーズ博士と娘の事情、絵画盗難の謎、密室など、それほどページ数の多くない中で、よくぞここまで謎を詰め込んだという感じだ。ちょっと面白かったのは犯人以外の容疑者それぞれにもネタを仕込んでいることで、終盤はジャブの連打でまずまず満足感はある。
 とはいえ釈然としないところが残るのも確か。やはり詰め込み過ぎが影響しているのか、重要な登場人物の行動を著者が処理しきれていない。トリック云々ではなく、人間の行動がしっかり説明できていないのが残念だ。この辺はミステリというより小説としての出来に関わるので、次作以降はもう少しレベルアップに期待したいところである。

 最後に本書最大の特徴、袋とじの解決編についてだが、話題作りはわかるけれども、個人的には開くのが面倒なだけなので、基本的にはやってほしくない(笑)。ただ、解説の袋とじミステリの歴史講義はなかなか楽しい。


Comments

Edit

fontankaさん

読みにくくはなかったですが、ぶっちゃけ期待外れといえば期待外れでした(笑)。
いろいろと詰め込んでいるのですが、それが連鎖して大爆発するようなところがなかったですね。カーは失敗してもなんらかの足跡を残す作家ですが、その点、この作者はまだ思い切りが足りませんね。

Posted at 22:54 on 09 05, 2023  by sugata

Edit

これ正直、読みにくかったです。
で、なんか詰め込み感満載でした。
タイトルですごくそそられたんですけど。
たぶん、こちら(読み手)に余裕がないとダメな本なんだと思いました。

Posted at 21:49 on 09 05, 2023  by fontanka

« »

12 2023
SUN MON TUE WED THU FRI SAT
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31 - - - - - -
プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

ツリーカテゴリー