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島久平『密室の犯罪』(湘南探偵倶楽部)
島久平の短篇「密室の犯罪」を読む。湘南探偵倶楽部さんから出た小冊子で、島久平というのが珍しい。
この三十年ほどでかなりの国内外のレア作品・作家が復刻されてきたけれど、島久平はそこまで人気が出なかったのか、河出文庫から出た『島久平名作選 5−1=4』と光文社文庫の〈本格推理マガジン〉の一冊に収録された『硝子の家』ぐらいしか記憶にない。本作はそれらの本にも収録されておらず、嬉しい復刻である。
こんな話。伝法探偵のもとへ南刑事が相談にやってきた。親の遺産で優雅に暮らす青年・油津が、自宅の研究室で死亡しているのが発見された。現場はコンクリートの壁と鉄の扉で閉ざされており、当初は自殺かと思われたが油津の体には複数箇所の銃創があり、自殺にしては不自然であった。また、研究室の中にはあらゆるものを溶かす劇薬タンクがあった。犯人はここに落ちて解けてしまったのでは、とする考えも浮上したが……。

あまりにベタベタなタイトルなので、さぞや力の入った密室ものかと思ったが、ううむ、これは本格ミステリというよりサスペンスだし、こちらの期待と予想をいろいろな意味で裏切る怪作でもある。
まず密室のトリックがもうトリックになっていない。おまけに事件の内容を聞いた伝法探偵が、早々に答えを出してしまうという荒技。その後は一応捜査も行われるが、最終的には謎解きも事件解決も披露されない。というか、事件を解決したかどうかすら描かれていないのである(笑)。
では事件の真相はどうだったのか、それは並行して描かれる油津青年のパートで明らかになるという具合。こちらはサイコサスペンスというノリで、変な迫力はあるけれど、とにかくいろいろと省略しすぎである。まるで梗概を読んでいるようで、もう少し油津パートを膨らませれば、それなりにちゃんとしたものになったかもしれないが、そもそもこの構成がなんとも収まりが悪くて、正直、捜査のパートの必要性がまったくない(苦笑)。
ということで作品の質はともかく、話のネタにはもってこいの一作。こういう機会でもなければ、おそらく絶対に読めなかっただろうし、とりあえず読めたこと自体はよかった。
この三十年ほどでかなりの国内外のレア作品・作家が復刻されてきたけれど、島久平はそこまで人気が出なかったのか、河出文庫から出た『島久平名作選 5−1=4』と光文社文庫の〈本格推理マガジン〉の一冊に収録された『硝子の家』ぐらいしか記憶にない。本作はそれらの本にも収録されておらず、嬉しい復刻である。
こんな話。伝法探偵のもとへ南刑事が相談にやってきた。親の遺産で優雅に暮らす青年・油津が、自宅の研究室で死亡しているのが発見された。現場はコンクリートの壁と鉄の扉で閉ざされており、当初は自殺かと思われたが油津の体には複数箇所の銃創があり、自殺にしては不自然であった。また、研究室の中にはあらゆるものを溶かす劇薬タンクがあった。犯人はここに落ちて解けてしまったのでは、とする考えも浮上したが……。

あまりにベタベタなタイトルなので、さぞや力の入った密室ものかと思ったが、ううむ、これは本格ミステリというよりサスペンスだし、こちらの期待と予想をいろいろな意味で裏切る怪作でもある。
まず密室のトリックがもうトリックになっていない。おまけに事件の内容を聞いた伝法探偵が、早々に答えを出してしまうという荒技。その後は一応捜査も行われるが、最終的には謎解きも事件解決も披露されない。というか、事件を解決したかどうかすら描かれていないのである(笑)。
では事件の真相はどうだったのか、それは並行して描かれる油津青年のパートで明らかになるという具合。こちらはサイコサスペンスというノリで、変な迫力はあるけれど、とにかくいろいろと省略しすぎである。まるで梗概を読んでいるようで、もう少し油津パートを膨らませれば、それなりにちゃんとしたものになったかもしれないが、そもそもこの構成がなんとも収まりが悪くて、正直、捜査のパートの必要性がまったくない(苦笑)。
ということで作品の質はともかく、話のネタにはもってこいの一作。こういう機会でもなければ、おそらく絶対に読めなかっただろうし、とりあえず読めたこと自体はよかった。
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Comments
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何でも溶かす劇薬タンク
こんにちは
>あらゆるものを溶かす劇薬タンク
戦前にサッパーと言う作家が「ブルドッグ・ドラモンド」のシリーズを書いています。
私は子供向けのポプラ社版「鉄人対怪人」という題で読みました。この中で何でも溶かす薬液の水槽が出てきて、ゴリラや人体が溶かされます。
これを思い出しました。
島久平もこれを読んだのか?それとも探偵小説にはよくありがちな装置なのか?わかりませんが。
Posted at 16:35 on 09 26, 2023 by ルル
ルルさん
戦前の国産ミステリ、特に子供向けに多かった記憶があります。といっても何があったかはすぐには思い出せないですが(苦笑)。死体や証拠の隠滅に手っ取り早かったんでしょうかね。
ありがちなパターンといえば、気球やアドバルーンに乗って逃げる怪人というのが、やはり戦前の子供向けミステリに異常に多くて、食傷気味でした。この手は正史がかなり使ってます。
Posted at 18:20 on 09 26, 2023 by sugata