Posted
on
楠田匡介『T怪人団』(湘南探偵倶楽部)
引き続き湘南探偵倶楽部さんの小冊子で楠田匡介の『T怪人団』を読む。
楠田匡介も島久平と同様、なかなか復刻されない作家ではあるが、なぜか湘南探偵倶楽部では子供向け短篇を中心にけっこうな数を出している。本書もその一冊である。
不正を働いた資本家や政治家をターゲットにし、首を切り取っては死体をT字型に貼り付けて晒し者にするという「T怪人団」。連続殺人事件を繰り広げている悪の一味である。
その日も石炭王・重村氏が車に乗っている最中に首を切られてしまう。だが、そこをたまたま通りかかった重村氏の孫・東正身(まさみ)少年が、運転手や警官らと共に犯人らしき男を追跡した。ところが犯人の乗る車は消影ガラスという兵器によって姿をくらまし、逆に全員がT怪人団に捕らえられてしまう。
正身少年の父にして偉大な科学者・東博士は、完全無線操縦の戦闘自動車を使い、T怪人団を壊滅させようとするが……。

楠田匡介は子供向けミステリをかなり量産していたようだが、その出来は乱歩や正史あたりと比べて落ちるのは当然としても、子供向けミステリ全体で見ても厳しいものがある。これまで読んだ作品もトンデモ系が多かったけれど、本作はその頂点に達するのではないか(笑)。
たとえば冒頭で、重村氏が車中で首なし死体になってしまうが、その殺害方法についての説明はなし。しかも実は人形にすり替えてあったというネタなのだけれど(一応ネタバレだが実害はないのでご容赦のほど)、そのすり替えの説明もなし。日本の政府を乗っ取るつもりらしいが、本人たちが何も言っていないのに東博士が知っている不思議。T字に貼り付けにする理由の説明なし。一味はKKKのような白服に身を包んでいるが。みな首がない不思議。それについての説明もなし。走りながら色を変え、ナンバーを変える不思議な車についての説明もなし。消影ガラスの説明からするとどうやらマジックミラーのようだが、ガラス越しに人だけが消える説明にはなっていない。ましてや自分たち以外がすべて消えるという逆イリュージョンの説明には絶対なっていない。
書き続けるとキリがないのでこれぐらいにしておくが、ほぼ全編にわたってツッコミどころ満載の作品。だが、別にツッコミどころがあってもかまわない。トンデモ系でもいいのである。ただし、ミステリである以上は、トンデモ系でもいいから一応はトリックなどを明かしてほしい。
本作がヤバいのは、上の例でも紹介したように、その説明を放棄していることにある。
昔の子供向け探偵小説や冒険小説はとにかく大らかで、今読むのはそのアバウトさを楽しむところはあるのだけれど、本作はそういう余裕を平然と超越する一作である。
楠田匡介も島久平と同様、なかなか復刻されない作家ではあるが、なぜか湘南探偵倶楽部では子供向け短篇を中心にけっこうな数を出している。本書もその一冊である。
不正を働いた資本家や政治家をターゲットにし、首を切り取っては死体をT字型に貼り付けて晒し者にするという「T怪人団」。連続殺人事件を繰り広げている悪の一味である。
その日も石炭王・重村氏が車に乗っている最中に首を切られてしまう。だが、そこをたまたま通りかかった重村氏の孫・東正身(まさみ)少年が、運転手や警官らと共に犯人らしき男を追跡した。ところが犯人の乗る車は消影ガラスという兵器によって姿をくらまし、逆に全員がT怪人団に捕らえられてしまう。
正身少年の父にして偉大な科学者・東博士は、完全無線操縦の戦闘自動車を使い、T怪人団を壊滅させようとするが……。

楠田匡介は子供向けミステリをかなり量産していたようだが、その出来は乱歩や正史あたりと比べて落ちるのは当然としても、子供向けミステリ全体で見ても厳しいものがある。これまで読んだ作品もトンデモ系が多かったけれど、本作はその頂点に達するのではないか(笑)。
たとえば冒頭で、重村氏が車中で首なし死体になってしまうが、その殺害方法についての説明はなし。しかも実は人形にすり替えてあったというネタなのだけれど(一応ネタバレだが実害はないのでご容赦のほど)、そのすり替えの説明もなし。日本の政府を乗っ取るつもりらしいが、本人たちが何も言っていないのに東博士が知っている不思議。T字に貼り付けにする理由の説明なし。一味はKKKのような白服に身を包んでいるが。みな首がない不思議。それについての説明もなし。走りながら色を変え、ナンバーを変える不思議な車についての説明もなし。消影ガラスの説明からするとどうやらマジックミラーのようだが、ガラス越しに人だけが消える説明にはなっていない。ましてや自分たち以外がすべて消えるという逆イリュージョンの説明には絶対なっていない。
書き続けるとキリがないのでこれぐらいにしておくが、ほぼ全編にわたってツッコミどころ満載の作品。だが、別にツッコミどころがあってもかまわない。トンデモ系でもいいのである。ただし、ミステリである以上は、トンデモ系でもいいから一応はトリックなどを明かしてほしい。
本作がヤバいのは、上の例でも紹介したように、その説明を放棄していることにある。
昔の子供向け探偵小説や冒険小説はとにかく大らかで、今読むのはそのアバウトさを楽しむところはあるのだけれど、本作はそういう余裕を平然と超越する一作である。
- 関連記事
-
-
楠田匡介『T怪人団』(湘南探偵倶楽部) 2023/09/23
-
楠田匡介『幻影の部屋』(湘南探偵倶楽部) 2022/02/19
-
楠田匡介『人肉の詩集』(湘南探偵倶楽部) 2021/12/17
-
楠田匡介『少年少女探偵冒険小説選 IV』(湘南探偵倶楽部) 2021/11/21
-
楠田匡介『少年少女探偵冒険小説選 III』(湘南探偵倶楽部) 2020/10/04
-
楠田匡介『少年少女探偵冒険小説選 II』(湘南探偵倶楽部) 2019/09/29
-
楠田匡介『少年少女探偵冒険小説選1』(湘南探偵倶楽部) 2019/07/02
-
楠田匡介『深夜の鐘』(湘南探偵倶楽部) 2019/06/02
-
楠田匡介『都会の怪獣』(湘南探偵倶楽部) 2019/05/06
-
楠田匡介『いつ殺される』(河出文庫) 2018/05/26
-
楠田匡介『犯罪への招待』(青樹社) 2007/11/21
-
楠田匡介『楠田匡介名作選 脱獄囚』(河出文庫) 2007/08/28
-
Comments
Edit
悪の一味
こんにちは
昔の少年向けにしては、首を切って死体をさらすってすごいですね。
KKKのような服装の悪の一味が登場する物語といえば「ジゴマ」を思い出しました。
国書刊行会から完訳本が出ましたが、お読みになったでしょうか?
何度危険な目にあっても死なないタフなヒーローが悪の地下組織との闘いを繰り返すという、現代でいえば仮面ライダーみたいな特撮ドラマの原形ではないかと思いました。
Posted at 16:52 on 09 26, 2023 by ルル
Edit
くさのまさん
楠田匡介も河出文庫の本格ミステリコレクションに入っていますし、傑作も多いのですが、いかんせんジャンルを問わず何でも量産しすぎたせいで、酷いのは本当に酷いですね(笑)。
日下氏の企画は全集的なものもいいですが、文庫でさらっと出る黒岩重吾とか田中小実昌とかの傑作選みたいなのが個人的には気に入ってます。
Posted at 18:04 on 09 24, 2023 by sugata
Edit
そこまで言われたら、
逆に読んでみたくなるのが探偵小説好きの悲しい性(笑)。
戎光祥出版の、日下さんの企画が続いていたらなぁ(←日下さんがそんな酷い作品を世に出すはずもない)。
Posted at 09:41 on 09 24, 2023 by くさのま
ルルさん
ジゴマやファントマの類は一度は読んでおきたくて、もちろん買ってはいるんですが、いざとなるといつでもいいやって感じで、なかなか読む気がおきずに困っています。
Posted at 18:24 on 09 26, 2023 by sugata