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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


〈タイム〉誌ミステリー&スリラーのオールタイムベスト100

 先日、〈タイム〉誌のミステリー&スリラーのオールタイムベスト100がネットで公開された。ざっと見ただけでもかなり個性的な内容だったので、とりあえず翻訳されているものを調べてみたのが以下のリストである。「所変われば」というのはもちろんあるだろうが、〈タイム〉誌という媒体も影響している感じである。
 いくつか気づいた点については、リストの後にまとめているので、そちらもご参照ください。
 また、もしかするとこれは翻訳されている等、抜けもあるかもしれないので、気づいた方いらっしゃればご連絡ください。

参照:The 100 Best Mystery and Thriller Books of All Time

ウィルキー・コリンズ『白衣の女』
ドストエフスキー『罪と罰』
A・K・グリーン『リーヴェンワース事件』
ヘンリー・ジェイムズ『ねじの回転』
アーサー・コナン・ドイル『バスカヴィル家の犬』
アガサ・クリスティ『アクロイド殺害事件』
マージェリー・アリンガム『The Crime at Black Dudley』
ミニオン・G・エバハート『夜間病棟』
ダシール・ハメット『マルタの鷹』
ルドルフ・フィッシャー『The Conjure-Man Dies』
ナイオ・マーシュ『アレン警部登場』
ドロシー・L・セイヤーズ『学寮祭の夜』
ジョン・ディクスン・カー『三つの棺』
ダフネ・デュ・モーリア『レベッカ』
エリック・アンブラー『ディミトリオスの棺』
ジェイムズ・M・ケイン『殺人保険』
チェスター・ハイムズ『If He Hollers Let Him Go』
ドロシイ・B・ヒューズ『孤独な場所で』
ジョセフィン・ティ『時の娘』
シャーロット・ジェイ『死の月』
イアン・フレミング『カジノ・ロワイヤル』
アイラ・レヴィン『死の接吻』
レイモンド・チャンドラー『長いお別れ』
マーガレット・ミラー『狙った獣』
グレアム・グリーン『おとなしいアメリカ人』
パトリシア・ハイスミス『太陽がいっぱい』(リプリー)
シャーリイ・ジャクスン『ずっとお城で暮らしてる』
ジョン・ル・カレ『寒い国から帰ってきたスパイ』
横溝正史『本陣殺人事件』
メアリ・ヒギンズ・クラーク『子供たちはどこにいる』
スティーヴン・キング『シャイニング』
ジェイムズ・クラムリー『さらば甘き口づけ』
ウンベルト・エーコ『薔薇の名前』
トム・クランシー『レッド・オクトーバーを追え』
バーバラ・ヴァイン『死との抱擁』
綾辻行人『十角館の殺人』
トマス・ハリス『羊たちの沈黙』
ウォルター・モズリー『ブルー・ドレスの女』
リンダ・ホーガン『Mean Spirit』
パトリシア・コーンウェル『検屍官』
ヘニング・マンケル『殺人者の顔』
エレノア・テイラー・ブランド『Dead Time』
ドナ・タート『シークレット・ヒストリー』
ペーター・ホゥ『スミラの雪の感覚』
ヴァレリー・ウィルソン・ウェズリィ『When Death Comes Stealing』
ハーラン・コーベン『カムバック・ヒーロー』
リー・チャイルド『キリング・フロアー』
高村薫『レディ・ジョーカー』
ヤスミナ・カドラ『Morituri』
桐野夏生『OUT』
ポーラ・L・ウッズ『エンジェル・シティ・ブルース』
ヴァル・マクダーミド『処刑の方程式』
トニ・ケイド・バンバーラ『Those Bones Are Not My Child』
バーバラ・ニーリイ『Blanche Passes Go』
ジョー・シャーロン『上海の紅い死』
ジョー・ネスボ『コマドリの賭け』
デニス・レヘイン『ミスティック・リバー』
カルロス・ルイス・サフォン『風の影』
テス・ジェリッツェン『外科医』
スティーヴン・L・カーター『オーシャン・パークの帝王』
サラ・ウォターズ『荊の城』
カミラ・レックパリ『氷姫』
ロベルト・ボラーニョ『2666』
ケイト・アトキンソン『探偵ブロディの事件ファイル』
東野圭吾『容疑者Xの献身』
スティーグ・ラーソン『ドラゴン・タトゥーの女』
マイクル・コナリー『リンカーン弁護士』
ナオミ・ヒラハラ『スネークスキン三味線』
ミーガン・アボット『暗黒街の女』
ローラ・リップマン『女たちの真実』
マイケル・シェイボン『ユダヤ警官同盟』
オルガ・トカルチュク『Drive Your Plow Over the Bones of the Dead』
クワイ・クァーティ『Wife of the Gods』
ルイーズ・ペニー『Bury Your Dead』
タナ・フレンチ『葬送の庭』
キム・オンス(クオン)『設計者』
フアン・ガブリエル・バスケス『物が落ちる音』
ギリアン・フリン『ゴーン・ガール』
ルイーズ・アードリック『The Round House』
横山秀夫『64』
ウィリアム・K・クルーガー『ありふれた祈り』
リアーン・モリアーティ『ささやかで大きな嘘』
セレステ・イング『秘密にしていたこと』
レイチェル・ハウゼル・ホール『Land of Shadows』
ヴィエト・タン・ウェン『シンパサイザー』
アッティカ・ロック『ブルーバード、ブルーバード』
ケリー・ギャレット『Hollywood Homicide』
オインカン・ブレイスウェイト『マイ・シスター、シリアルキラー』
スジャータ・マッシー『ボンベイ、マラバー・ヒルの未亡人たち』
アンジー・キム『ミラクル・クリーク』
ヘレン・フィリップス『The Need』
ライラ・ララミ『The Other Americans』
ルース・ウェア『The Turn of the Key』
ステフ・チャ『復讐の家』
S・A・コスビー『黒き荒野の果て』
ディーパ・アーナパーラ『ブート・バザールの少年探偵』
シルヴィア・モレノ=ガルシア『メキシカン・ゴシック』
アリッサ・コール『ブルックリンの死』
デイヴィッド・ヘスカ・ワンブリ・ワイデン『喪失の冬を刻む』
ロビン・ギグル『Survivor’s Guilt』

 所感を残しておこう。
 まず我が国で人気の作家が多数入っていない。ポオ、クイーン、ヴァン・ダイン、クロフツ、ロスマク、ウールリッチなどなど非常に多いのは注目すべきだろう。その逆に日本では知られていない作家も多いが、さすがにこちらには古い作家はおらず、比較的新しい作家ばかりだ。
 それにしても大御所をここまで切り捨てるのは疑問が残るけれども(逆に同時代でランクインした作家の理由も知りたいところ)、日本でやるベスト100と違い、新しい作品を積極的に取り込もうとしているのは悪いことではない。ただ、過去の名作を捨ててまで入れる必要があるのかという作品も少なくないだけに難しいところである。
 また、邦訳はあるが日本ではまったく評判にならなかった作品、さらには、その作家ならこの作品だろうという妙なセレクトも目立つ。たとえばナイオ・マーシュの『アレン警部登場』やマイクル・コナリーで『リンカーン弁護士』を選ぶセンスはちょっとどうなんだろう。

 日本人作家が意外なほど多く選ばれているのも不思議だった。選ばれている作品は傑作揃いだし、選ばれていること自体は喜ばしいが、別にこれが日本のベスト・オブ・ベストとは思えないので、これらが選ばれた基準にこそ興味がある。たまたま近年、邦訳が進んだ結果なのか? 知り合いの日本人に紹介されたか? そもそも日本作品を戦後ぐらいから通して読んでいるアメリカ人はどの程度いるのかも疑問である。もしかしたら、どこかに説明があるかもしれない。

 もうひとつ気づいたのが、まあ、これは想像していたけれど、ミステリからかなり離れた、要は人間ドラマを重視した作品が多いことだろう。ご存じのように近年のミステリでは、動機などが重視されていない作品、謎解きゲームのような作品は評価されにくい傾向がある。だから純粋な本格ミステリは海外で流行らないのだが、ただ、その中で正史の『本陣殺人事件』が選ばれているのは不思議である。
 
 まあ、以上のようなクセのあるベスト100であり、決して鵜呑みにはせず、あくまで参考程度、話のネタぐらいがちょうどよいだろう。


※202301010,19:40追記
Dokuta 松川良宏さん、三門優祐さんよりご指摘いただき、下記を修正しました。ありがとうございます!

ジョー・シャーロン『上海の紅い死』(ハヤカワ・ミステリ文庫)
ナオミ・ヒラハラ『スネークスキン三味線』(小学館文庫)
キム・オンス『設計者』(クオン)
スジャータ・マッシー『ボンベイ、マラバー・ヒルの未亡人たち』
セレステ・インゲ『秘密にしていたこと』
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Comments

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ルルさん

『白衣の女』が文庫で読めるのはありがたいですよね。私は若い頃に読んだのですが、当時は文庫になる前でしたから、国書刊行会版を思い切って買った記憶があります。これでつまらなかったらどうしようと思って(笑)。
ちなみに同じ時代、同じゴシック系の作家、アン・ラドクリフも最近ぼちぼちと翻訳されているようで驚いています。

Posted at 21:33 on 10 17, 2023  by sugata

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白衣の女

 いきなりコリンズの「白衣の女」が載っていて嬉しいです。ミステリーというよりはスリラーですね。ドイル以前の小説として一度は読んでおこうかなと思い、読んでみたら面白くてコリンズにハマりました。そして19世紀の扇情小説にも興味を持ちました。だいたいが長くてのんびりした物語で、現代人にとっては退屈な作品群かもしれませんが。
 そういえば、ドイルの『橅の木屋敷の怪』を読んだとき、コリンズ風だと感じました。屋敷とか家庭教師とか。解説を読むと、ドイルがホームズ物をやめようと母に漏らしたとき反対されて、母がアイデアを提供してそれを参考にしたそうです。
 母の世代だと、若い時にコリンズなどの扇情小説を読んでいて、その影響かなと想像しています。

Posted at 19:30 on 10 17, 2023  by ルル

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ポール・ブリッツさん

ああ、そう意味でしたか。それは私も思いました。投票とかじゃなく、話し合いで決めたようなので、いろいろな意味で万全な感じを出したかったんでしょう。ただ、作家も相当数参加していて、その作家の作品がしっかり入っているのもすごいなあと思います。さすがアメリカ(笑)。
ただ、フランス作家が入っていないのは本当に不思議ですね。

Posted at 17:16 on 10 12, 2023  by sugata

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なんか「ボクもちゃんと、日本のミステリの歴史なんかも押さえてるんだよね」って感じがすごくアリバイ工作っぽくって(←偏見w)

「クイーンの定員」に歴史的意義で入った「マルタの鷹」みたいな居心地の悪さを感じるんですよねえ(←ど偏見w)

Posted at 12:27 on 10 12, 2023  by ポール・ブリッツ

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横溝だったらもっといい作品あるだろう、とか、綾辻だったらもっといい作品あるだろう、とかいうボヤキっす。 高度に政治的なラインナップじゃないかと思えてなりません(;^_^A

選考理由はこれから読みます。英語苦手やけど。

Posted at 12:24 on 10 12, 2023  by ポール・ブリッツ

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ポール・ブリッツさん

ごめんなさい。ちょっと意味がわからない(笑)、それはTIMEが政治的に正しいリスト作りをしているとか、そういう意味で?
あ、年代的にこの間も押さえているけど、該当作なかったんだよねとか、そっちの意味ですかね?

Posted at 22:24 on 10 10, 2023  by sugata

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「十角館」と「本陣」にアリバイ工作の可能性を鬼貫警部ではないけどふと考えてしまうのは病気ですかねえ……。

Posted at 19:32 on 10 10, 2023  by ポール・ブリッツ

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Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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