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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


ジュノー・ブラック『狐には向かない職業』(ハヤカワ文庫)

 ジュノー・ブラックの『狐には向かない職業』を読む。動物たちが仲良く暮らす村で起きた殺人事件、その謎を追うキツネの新聞記者の物語である。

 まずはストーリー。さまざまな森の動物たちが住む田舎町〈シェイディ・ホロウ〉。そこでは食物連鎖も関係なく、動物たちは人間のように皆何らかの仕事に就き、日々を平和に過ごしている。
 ところがある日、ヒキガエルのオットーが背中をナイフで刺されて死んでいるのが発見された。しかし検視の結果、オットーはナイフを刺される前に毒殺されていたことが判明する。新聞記者のキツネのヴェラが取材を続けると、平和に思えた村にも、実はいろいろな秘密があることがわかり……。

 狐には向かない職業

 住民がすべて動物という平和な村、という設定だけで何やらおとぎ話やファンタジーのようにも思えるが、ミステリの衣を着てはいるものの、実際、著者の狙っているのはその辺りなのだろう。

 というのも、ミステリである以上、ある程度の緻密さや論理性が要求されるが、本作はいろいろな意味でゆるい(苦笑)。ミステリにファンタジーやSF的な設定を用いる場合、各作家はまず世界観を作り込むところから始めるのが普通だろう。架空の世界であっても、いや、架空の世界だからこそ、ルールが固まっていないことにはミステリとして機能しなくなるからだ。
 ところが本作はそこまでカチッとした設定を作っているわけではない。田舎町なのに新聞社があったり、警察官のような公務員の存在の不思議だったり、そもそも〈シェイディ・ホロウ〉以外の世界はどうなっているのか等々。ツッコミどころは満載だが、著者はおとぎ話やファンタジーの色を強めることで、それらの問題にまとめて対処している。つまり「野暮なことは言いなさんな」というわけである。このユルユルの世界で起こる動物たちの微笑ましいドタバタを楽しんでほしいというところなのだろう。

 ただ、動物たちが活躍するミステリなのだから、もう少し動物たちを活かす工夫がほしい。登場人物が全員、動物だが、暮らしぶりはほぼ人間と変わらないし、それぞれの動物の能力なども少しは発揮されるけれど、内容にそこまで影響を与えているわけでもない。とりわけ主人公のキツネにいたっては、キツネ力を発揮するどころか最も人間くさい始末(笑)。
 また動物たちの会話や行動も少し子供向けの感じがして物足りなかった。これは読者層を意識してのことだろうが、そのくせ事件やその背景はそれなりに生臭かったりするので、このバランスの悪さは気になるところだ。

 まあ、この手のミステリにガチの謎解きを求めるのは確かに無粋ではあるので、そこは別にいいのだが、やはり動物ならではの魅力をもう少し打ち出した方が、普通に小説として面白くなったのではないだろうか。


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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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