fc2ブログ
探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


ジェレット・バージェス『不思議の達人(上)』(ヒラヤマ探偵文庫)

 「クイーンの定員」の五十番目に選ばれた、ジェレット・バージェスの『不思議の達人』を読む。けっこうボリュームがあるようで、本日はその上巻の感想である。まずは収録作。

Missing John Hudson「ジョン・ハドソンの失踪」
The Stolen Shakespeare「盗まれたシェークスピア」
The MacDougal Street Affair「マクドゥーガル街事件」
The Flashawe Ghost「ファンショーの幽霊」
The Denton Boudoir Mystery「デントンの婦人の間の謎」
The Lorsson Elopement「ロースソンの駆け落ち」
The Calendon Kidnapping Case「カレンドン誘拐事件」
Miss Dalrymple's Locket「ミス・ダーリンプルのロケット」
Murder Thirteen「十三」
The Trouble with Tulliver「タリヴァー事件」
Why Mrs. Burbank Ran Away「なぜバーバンク夫人は逃げたのか」
Mrs. Selwyn's Emerald「セルウィン夫人のエメラルド」

 不思議の達人(上)

 本作の探偵役は預言者にして占い師のアストロである。その活躍する作品が発表されたのは1900年ごろで、いうまでもなくホームズの活躍に影響されて誕生したライバルの一人だろう。ただ『不思議の達人』というベタベタのタイトルや探偵役の職業だけを見てしまうと、なんとなく虚仮脅し的というか胡散臭い感じがして、正直面白そうには思えない。
 ところが、いざ読み始めると意外なリーダビリティの高さに驚いてしまった。といっても謎解きとしてはそこまでのレベルではないのだが、設定やストーリー作りが上手いという印象である。クリスティのクイン氏とかパインとか、ちょっとあの辺を思い出した。

 そもそもアストロの本職が占い師だから、大きな事件はあまり持ち込まれない。悩み事があるから占ってもらおうぐらいの話が多いのだが、アストロはそれに対して占うわけではない。実は鋭い観察力と推理力を持って事実を探り当てるのである。ホームズが来客の素性をすぐに推理してみせるアレを、オカルトの力で当ててみせる体にしているわけである。
 犯罪現場にもちゃんと赴き、その場での波動を直接感じることが必要などと宣いながら、しっかりとホームズばりに現場を調査する。そうして論理的・科学的に謎を解決した暁には、事実が水晶玉に浮かび上がってましたといって一件落着。こうしてアストロは探偵としてではなく、占い師、預言者としての名声をあげ、ついには警察も協力を求めるようになる。
 探偵術をあえてオカルトにして稼ぐというパターンが、ミステリの逆張りのようでそこが面白い。

 アストロの占い師モードと探偵モードの切り替えぶり、助手のヴァレスカ(これまた謎多き美女)とのやりとりなども含め、とりあえず一作目の「ジョン・ハドソンの失踪」で全体のイメージを掴みやすく、これが気に入れば、どの作品も失望することはないだろう。先ほども少し書いたけれど、謎解きはともかく娯楽読み物としては悪くない短篇集である。
 特に気に入ったものとしては、「カレンドン誘拐事件」が、当時としては(おそらく)画期的な身代金の受け渡し方法を用いていて面白かった。

Comments

Edit

ルルさん

ホームズのライバルにもいろいろいますが、アストロものは五つ星で評価すると平均★★★ぐらいは上げてもよろしいかと。ただ、面白さの基準はミステリというよりエンタメ作品として、になりますが。

また、ヒラヤマ探偵文庫はBOOTHで多く取り扱っているようです。
https://detectivebooks.booth.pm/

>以前紹介された『スーザン・ホープリー』も読んでみたいのですが、文字が小さくて読みにくいのでしょうか?

文字が小さいというより、文字詰や行間などのレイアウト、紙の種類が今ひとつで、少し読みにくさがあります。同人なので、どうしてもそこは商業出版の本に比べると見劣りしますが、以前に比べるとかなり改善はされています。
ただ、中身は希少性もありますし、それこそここでないと読めないものばかりなので、私はありがたく楽しませてもらっています。

Posted at 22:48 on 12 10, 2023  by sugata

Edit

ヒラヤマ探偵文庫

 題名が確かにべたで、表紙の絵もミステリーらしく無い感じですね。でもこうしてブログで読んでみると面白そう。
 私は何かの本を検索しているうちに、それがヒラヤマ探偵文庫だと知ったのですが、自分では「ヒマラヤ」だと思い込んでしまい、他にどんな本があるかなと「ヒマラヤ探偵文庫」で検索しても見つからず、あきらめていた時期がありました。
 以前紹介された『スーザン・ホープリー』も読んでみたいのですが、文字が小さくて読みにくいのでしょうか?

Posted at 22:31 on 12 10, 2023  by ルル

« »

02 2024
SUN MON TUE WED THU FRI SAT
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 - -
プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

ツリーカテゴリー