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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


ホレス・マッコイ『彼らは廃馬を撃つ』(王国社)

 ホレス・マッコイをもう一冊。長編第一作の『彼らは廃馬を撃つ』である。まずはストーリー。

 映画監督になることを目指してハリウッドにやってきた青年〈私〉だったが、現実は厳しくエキストラの仕事にもあぶれる始末だった。そんなある日、女優志望の女性グロリアと知り合い、賞金目当てでマラソン・ダンス大会にペアを組んで出場することになる。マラソン・ダンス大会とは、一時間五十分踊って十分間の休憩を挟み、これを繰り返して最後の一組になるまでひたすら踊り続ける過酷なコンテンストだった。
 プロや犯罪者など、訳ありの参加者に混じって踊り続ける二人だったが、徐々にグロリアの精神状態がおかしくなる中、他の競技者にもトラブルが頻発して……。

 彼らは廃馬を撃つ
▲ホレス・マッコイ『彼らは廃馬を撃つ』(王国社)【amazon

 マラソン・ダンス大会は実際に1920年代のアメリカで大流行したコンテンストである。ダンスコンテンスと言いながらも、その実は心身とも極限状態になる参加者の狂態を見せ物にするショーであった。時代が時代なので管理は杜撰だが、それでいて賞金額は莫大だから参加者も半数がこの競技を専門にやるプロ、その他も一攫千金を狙う有象無象が入り混じり、常にトラブルが絶えなかっという。
 そんな胡散臭い大会自体の面白さがベースにあり、そこに主人公ペアの徐々に壊れていく様子、また、他の競技者のさまざまな人間ドラマが描かれていて、長編としては短いながらも、独特の熱気と雰囲気に包まれた、非常に興味深い作品となっている。

 構成が少し凝っていて、主人公の青年は冒頭で裁判にかけられている。どうやらペアの女性を殺害した罪らしいのだ。ここでまず「エッ?」となるのだが、結末を先に明かしているだけに、彼がなぜ女性を殺すに至ったか、破滅に向かって主人公がどう壊れていくのか、そんな興味でもストーリーを引っ張ってゆく。というか、やはりメインテーマはこっちだろう。
 ただ、序盤の主人公は割と常識人で、とても狂っているようにも思えない。むしろペアを組むグロリアが危険たっぷりで、そのあたりが逆になんとも言えない先への不安を醸し出し、これが当時の貧しい若者の虚無感や絶望感に通じている。章ごとに設けられた、徐々に活字が大きくなる判決文も、カタストロフィを象徴しているかのようで効果的である。
 そしてそれに呼応するかのように、失神者が続出したり、主催者が難題を押し付けたり、大会の最中に犯罪者が逮捕されたり、大会が進むにつれて数々のトラブルが発生。先ほどの不安を裏づけるかのようで、読んでいるこちらもザワザワした気持ちに包まれてしまう。そしてラストの衝撃と明らかになるタイトルの意味。
 言いようのない読後感に襲われつつも、本作がかなり考え抜かれた構成の上に成り立っていることに、あらためて感心するのである。

 マラソン・ダンス大会をモチーフに、当時のアメリカの空気、若者の状況を鮮やかに描いた傑作で、ますます『屍衣にポケットはない』が楽しみになった。

 なお、管理人は王国者版で読んだが、現在は白水Uブックスで新刊を購入可能である。
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Comments

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ハヤシさん

フランスって基本的にはプライドが高い国だと思うのですが、こと芸術に関しては、区別なく徹底的に人間とは何かを探ってきたところがありますよね。そういった批評精神というか、それによってハードボイルドであろうと、あるいは最近人気の日本の漫画であろうと、きちんと向き合っているイメージがあります。その上で(アメリカ文化に対する屈折した愛もあるのでしょうが)、自分たちの文化では産み出せなかったものへのリスペクトみたいなものが発生してくるのかなぁ、などと思ったりもします。

Posted at 10:00 on 01 27, 2024  by sugata

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本作の王国社版は20代の頃、何度も読み返しました。しかしフランス人がケインやマッコイ達のパルプフィクションに実存主義的な主題を発見したり、アート・ブレイキーなどのジャズを本国以上に評価する流れに屈折したアメリカ文化への愛を感じるのが興味深いです。

Posted at 01:13 on 01 27, 2024  by ハヤシ

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ポール・ブリッツさん

勝ち負けの差が大きいほど、つまりギャンブル性が高くなるほど、それがなんであっても、品格は落ちるし、人間の本性が曝け出るのでしょうね。ゴルフじゃなくても面白そうなので、知っている世界で書けばいいなじゃないでしょうか。

Posted at 22:35 on 01 25, 2024  by sugata

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宝くじで3億円当てたら

3億円を当てたらそのうち2億円を使って、「優勝者のみ賞金1億円、あとは賞金いっさいなし」というゴルフトーナメントを開いてみたい、と空想することがありますが、マラソンダンス大会を見に来る人もそんな感じなのかもしれませんね。狂態を楽しむっていうことでは。
よく考えたらそのゴルフトーナメントの設定を使って連続殺人事件が起きるミステリを書いたら傑作になるような気がしたけど、自分にはゴルフの知識なんてノミのなんとやらよりも存在しないのでため息をつきながら没にするのでありました。とほほ。

Posted at 22:04 on 01 25, 2024  by ポール・ブリッツ

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Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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