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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


アルバート・ハーディング『レイヴンズ・スカー山の死』(ROM叢書)

 ROM叢書をもういっちょ。アルバート・ハーディングの『レイヴンズ・スカー山の死』を読む。
 初めて読む作家だが、それもそのはず著者はまったくの無名作家。Wikipedeiaによると鉱業関係の会社員から上院議員となり、その後も内務省などで働いたとのこと。執筆はあくまで趣味や余技のようで、残した小説は本作を含め三冊。それ以外に癌との闘病記を描いたノンフィクションが一冊ある。

 こんな話。放浪生活を始めることにした初老のジョージ・プロッサーは、街で知り合った老人が暮らす湖水地方へ向かうことにした。その途中、元警官の女性私立探偵ジュディスと知り合い、彼女の伯父ベンジャミンの宝石盗難事件を手伝うことになる。
 ところが現地では、ジュディスのもう一人の伯父、ジョゼフの転落死事件が発生し、殺人ではないかという噂でもちきりだった。そして、ベンジャミンもまた同じ場所で転落死してしまう……。

 レイヴンズ・スカー山の死
▲アルバート・ハーディング『レイヴンズ・スカー山の死』(ROM叢書)

 1953年に刊行された未知の作家の作品とはいえ、ROM叢書で出るぐらいなので一定水準はクリアしていると想像はしていたが、これは予想以上だった。
 まず非常にリーダビリティが高いのが高ポイント。それに大きく貢献しているのが、テンポよく起伏に富んだストーリーである。第二の転落死事件、不審な交通事故、事件の背後に隠されたある事実などなど、エピソードの出し入れが巧く、その度に新たな手がかりが提示されていき、読者を煙に巻いていく。ロマンス要素も意外に多くて、最初は味付けレベルかと思っていると、これすら読者の目眩しにもなっている。
 キャラクターも生き生きと描かれ、特に主人公はアマチュア探偵ながらそれなりの人生経験と常識力を持って着実に真相に近づいていくので好感が持てる。あくまで第三者として関わる距離感もいい按配である。また、彼に関わる女性探偵や女性作家、宿屋の女将など、時代の波もあるのか、とりわけ女性キャラクターがしっかり自立している感じもいい。
 ストーリーやキャラクター造形など、全体的に古い感じがなく、現代物といっても通用しそうなテイストである。

 もちろん長所はそれだけではない。何より本格探偵小説としてしっかりした構成で作られており、意外性も十分にある。真相を知ると、あれもこれも伏線だったのかという驚き。しかもそれらがけっこう大きい手がかりだったりするので、これはもう素直に脱帽するしかない。
 途中でけっこう気になる部分もあったのだけれど、その理由が最後になって腹に落ちる。まさにこういう快感こそがミステリの愉しみであり、著者はそれがよくわかっている。
 一つだけ大きなご都合主義のところがあり、それさえ綺麗に処理されていればもっと良かったが、まあ、それは贅沢というものだろう。

 ということで全体的には満足の一冊。
 ちなみに本書の刊行当時、といっても昨年の十二月だが、その頃はまだ著者情報がよくわかっていなかったようで、作品のレベルの高さから有名作家の別名義作品(たとえばジョン・ロードとかの)ではと解説に推測されていた。管理人も読了直後はロマンス要素の多さと女性の描き方の巧さから、これは女性作家ではないかなと思っていたのだが、フランス版Wikipediaの掲載記事によるとどうやら違ったようだ。ううむ。

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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