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小泉喜美子『弁護側の証人』(集英社文庫)
読了本は小泉喜美子の『弁護側の証人』。
キャバレーのストリッパーをしていたミミイ・ローイこと漣子は、あるとき八島財閥の御曹司、杉彦に見初められて結婚することになる。しかし、杉彦は当主、龍之介の長男ながら放蕩息子でもあり、しかも身分の違う女性を嫁がせたことから、八島家では水面下で緊張が高まっていった。そんなある日、龍之介が殺害され、杉彦が犯人として逮捕されてしまう。一審では死刑判決が下ったが、漣子は清家弁護士や緒方警部補らの協力を得て、夫を助けようとする……。
全編トリックとも云うべき一冊で、正直感想が書きにくい。
出だしはなんとなくゴシック・ロマン風である。高貴な家に嫁いだ身分の低い女性が、周囲の理解を得られぬままに翻弄される姿や、あるいは夫を救うために弁護士と相談する場面と回想が交互に語られる構成など、今読むと古めかしい印象は拭えない。だが、すべては周到な作者の計画だったことがラストで知らされる。
文体は翻訳ミステリを愛した小泉喜美子らしい、やや硬さの感じられる文体で、これが主人公漣子の女々しいセリフとうまくマッチしていない感じだが、それぐらいは目をつぶろう。
とにかく読んでくれ、というしかないのだが、面白さは保証する。オススメ。
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Comments
ポール・ブリッツさん
ううむ、そんなことがありましたか。84年度の文春ミステリーベスト100は持っているはずなので、今度ぜひ確かめてみたいと思います。まあ、書評や紹介のしにくい本ではあるんですけどね。
Posted at 23:18 on 07 13, 2015 by sugata
いま、「弁護側の証人」を読み終えて、
1984年版文春ミステリーベスト100において「弁護側の証人」のあらすじ紹介を書いたやつは切腹して地獄の炎の中に投げ込まれるべきである、と心の底から思いました。いくらなんでも、あれはないだろう、です。高校生のわたしが、どうして「弁護側の証人」を退屈な駄作、と思ったのか、あの84年度文春版のあらすじを読めばよくわかります。
とはいえあのころはまともな廉価のミステリー紹介本ってあの一冊だけだったし。
当時このミステリの趣向にびっくりできなかった自分に呆れ果てて泣きながら部屋の掃除をします。とほほ。
しかしほんとに、あのあらすじ紹介書いたやつはミステリーの敵かなにかだな。バッカじゃなかろか。とほほ。
Posted at 09:55 on 07 13, 2015 by ポール・ブリッツ
ポール・ブリッツさん
エッセイ等では執拗なまでに自己のミステリ論を貫いた彼女ですが、創作に関しては逆にそれが足かせになってしまい、出来にバラツキが出たのかなとも思います。まあ理想と現実が一致しないのは、小泉喜美子に限らずままあることですから、そこは広い心で(笑)。とりあえず『弁護側の証人』はいい作品だと思いますよ。(ちなみに集英社文庫で復刊されるらしいです)
Posted at 01:11 on 03 31, 2009 by sugata
この本も高校生のころに読みました。
「都会的でしゃれたミステリーが書きたい」という著者の作品だというからどんなものだろうと思って読むと、昼ドラかと一瞬疑うようなドロドロのドラマが展開され、どこが都会的でしゃれているんだー! と本に向かってツッコんだものです(笑)。
それ以来、実作者としての小泉氏の作品には触れておりません。というよりも、どこにも売っていなかったので触れようがなかったのでありますが。
あれから幾星霜、そろそろもう一度再読してもいいかな、と思っているのですが、そういうときに限って売っておりませんねえとほほほ。もっと待って、トリックも犯人も忘れるまで待て、ということかもしれませんが、あのトリックと犯人は忘れようがない(爆)。
まあカネもないのですが。
Posted at 17:39 on 03 30, 2009 by ポール・ブリッツ
ポール・ブリッツさん
探す手間を省いてくれてありがとうございました。あれはダメですね(笑)。
Posted at 23:47 on 07 14, 2015 by sugata