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ウィリアム・アイリッシュ『死者との結婚』(ハヤカワ文庫)
ウィリアム・アイリッシュの『死者との結婚』読了。
男に捨てられたヘレンという女性がいた。彼女は八ヶ月という身重ながら財産も身寄りもなく、何の希望もないままに故郷のサンフランシスコへ向かう列車に乗り込む。しかしそこで富豪のハザード夫妻と出会ったことで、彼女の人生は大きく回転し始めた。何と列車が転覆事故を起こし、ヘレンはハザード家の新妻グレースと間違われ、病院のベッドに横たわっていたのだ。良心の痛みを感じながら、ヘレンは子供のためにハザード家へ身をまかせることになり、生まれて初めての幸せな日々を過ごすことになった。だが……。
アイリッシュ=ウールリッチの作品には、事件に巻き込まれて独力で真相を解き明かす主人公というパターンが多い。本作はその設定にややひねりを加えたパターンとでもいおうか、他人になりすました主人公がどこまで家族を騙しとおせるか、という興味で物語を引っ張っていく。相変わらずの名文で、この緊張感を持続させる手腕が見事。
しかも本作はプロローグである程度ネタをばらしており、主人公の運命がどのように転がっていったのかという興味も持たせる。ミステリとしては弱いが(これも相変わらず)、巧みな心理描写、読者の想像に任せるようなラストも含め、トータルではなかなか悪くない。とりわけヘレンの不安な心理が執拗に描かれる前半は、居心地が悪いのだけれどグイグイ引き込まれた。
なお、ウールリッチの長編はこれで全作読了。雰囲気や文章で読ませる人だから、どの作品もそれなりに楽しめるが、やはり現在の創元と早川の作品は、もう翻訳が古くなりすぎているかもしれない。どこか新訳でまとめてくれないものだろうか。
男に捨てられたヘレンという女性がいた。彼女は八ヶ月という身重ながら財産も身寄りもなく、何の希望もないままに故郷のサンフランシスコへ向かう列車に乗り込む。しかしそこで富豪のハザード夫妻と出会ったことで、彼女の人生は大きく回転し始めた。何と列車が転覆事故を起こし、ヘレンはハザード家の新妻グレースと間違われ、病院のベッドに横たわっていたのだ。良心の痛みを感じながら、ヘレンは子供のためにハザード家へ身をまかせることになり、生まれて初めての幸せな日々を過ごすことになった。だが……。
アイリッシュ=ウールリッチの作品には、事件に巻き込まれて独力で真相を解き明かす主人公というパターンが多い。本作はその設定にややひねりを加えたパターンとでもいおうか、他人になりすました主人公がどこまで家族を騙しとおせるか、という興味で物語を引っ張っていく。相変わらずの名文で、この緊張感を持続させる手腕が見事。
しかも本作はプロローグである程度ネタをばらしており、主人公の運命がどのように転がっていったのかという興味も持たせる。ミステリとしては弱いが(これも相変わらず)、巧みな心理描写、読者の想像に任せるようなラストも含め、トータルではなかなか悪くない。とりわけヘレンの不安な心理が執拗に描かれる前半は、居心地が悪いのだけれどグイグイ引き込まれた。
なお、ウールリッチの長編はこれで全作読了。雰囲気や文章で読ませる人だから、どの作品もそれなりに楽しめるが、やはり現在の創元と早川の作品は、もう翻訳が古くなりすぎているかもしれない。どこか新訳でまとめてくれないものだろうか。
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