- Date: Thu 14 07 2005
- Category: 国内作家 城昌幸
- Community: テーマ "歴史・時代小説" ジャンル "本・雑誌"
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城昌幸『若殿行状記』(桃源社)
城昌幸の時代物の連作短編集『若殿行状記』を読む。
主人公は摂州尼ヶ崎で四万石を召し取る松平遠江守の若殿、千代丸。堅苦しい大名の生活に嫌気が差し、夜な夜な屋敷を抜け出しては、お江戸の庶民の生活にたわむれるうち事件に遭遇し、持ち前の剣技と正義感の強さで困っている人を救うというお話し。本書には「五十両娘」「南蛮薬の謎」「悲願折鶴香炉」「風雲江戸屋敷」という四つの短編が収められている。
一読して思い出されるのが、やはり同じ著者の手になる若さま侍捕物帖である。貴い身分を持つ主人公がお忍びで町に下り、数々の事件を解決するという設定はまったく同じ。このような設定は「遠山の金さん」をはじめとして時代物の定番でもあるから、別に城昌幸に限ったことではないのだが、それによって起こるエピソードやくすぐりがどうしても同じようなパターンになり、雰囲気も似てきてしまう。
逆に大きく違うのは、若さま侍がかなり探偵小説的であるのに対し、千代丸はあくまで時代小説である点だ。
若さま侍の場合、事件には必ず謎があり、一応推理によってその謎を解決するという形を採っている。しかしながら本書の場合、事件は起こるにせよ、謎らしい謎はほとんどなく、千代丸は最後に腕っ節で片をつける。しかも若さまがめったに人を斬らないのに、千代丸はもう滅多切りで悪人の死体の山を築いていく(笑)。この辺りも時代小説における正統的な読者サービスなのであろう。
したがってぱっと見はそこそこ似ている両シリーズとはいえ、目指すところはまったく異なるといえるだろう。
ただ、興味深いのは本書に収められている「悲願折鶴香炉」だ。この作品は本書中でも一番の出来だと思うのだが、他の三作に比べると探偵小説味が強いのである。暗号は出てくるし、事件の解決においても謎解きが行われている。物語的にも複雑で、3つの集団がある貴重品を巡って火花を散らすという、なかなか冒険小説的なノリもある。さらには主人公の千代丸も、本作においては言動が若さま侍と似ているところも多い(さすがに酒は飲まないが)。面白いことは面白いが、こうなると若殿千代丸シリーズの意義も大きく薄れてしまう。
詳しいところは調べてみないとわからないが、国会図書館のデータで発行年を単純に見てみると、本書の元版が1958年なのに対し、若さま侍の登場は1949年と思われるため、おそらくは若殿千代丸のデビューが後だろう(ただし初出が不明なので断言はできないが)。したがって「悲願折鶴香炉」は作者の筆がつい滑ったか、もしくは、そんなことは端から気にしていなかったかのどちらかとなる。おそらく後者か(笑)。
ちなみに城昌幸には、他にも「若殿」と冠のつく作品がいくつかある。本書と同一シリーズかどうかは読んでみないとわからないが、手元には何冊かあるので、またそのうちチャレンジしてみよう。ただ、若さま侍のように探偵小説っぽいものならいいのだが、丸まる時代小説だとちょっと嫌かも(笑)。
主人公は摂州尼ヶ崎で四万石を召し取る松平遠江守の若殿、千代丸。堅苦しい大名の生活に嫌気が差し、夜な夜な屋敷を抜け出しては、お江戸の庶民の生活にたわむれるうち事件に遭遇し、持ち前の剣技と正義感の強さで困っている人を救うというお話し。本書には「五十両娘」「南蛮薬の謎」「悲願折鶴香炉」「風雲江戸屋敷」という四つの短編が収められている。
一読して思い出されるのが、やはり同じ著者の手になる若さま侍捕物帖である。貴い身分を持つ主人公がお忍びで町に下り、数々の事件を解決するという設定はまったく同じ。このような設定は「遠山の金さん」をはじめとして時代物の定番でもあるから、別に城昌幸に限ったことではないのだが、それによって起こるエピソードやくすぐりがどうしても同じようなパターンになり、雰囲気も似てきてしまう。
逆に大きく違うのは、若さま侍がかなり探偵小説的であるのに対し、千代丸はあくまで時代小説である点だ。
若さま侍の場合、事件には必ず謎があり、一応推理によってその謎を解決するという形を採っている。しかしながら本書の場合、事件は起こるにせよ、謎らしい謎はほとんどなく、千代丸は最後に腕っ節で片をつける。しかも若さまがめったに人を斬らないのに、千代丸はもう滅多切りで悪人の死体の山を築いていく(笑)。この辺りも時代小説における正統的な読者サービスなのであろう。
したがってぱっと見はそこそこ似ている両シリーズとはいえ、目指すところはまったく異なるといえるだろう。
ただ、興味深いのは本書に収められている「悲願折鶴香炉」だ。この作品は本書中でも一番の出来だと思うのだが、他の三作に比べると探偵小説味が強いのである。暗号は出てくるし、事件の解決においても謎解きが行われている。物語的にも複雑で、3つの集団がある貴重品を巡って火花を散らすという、なかなか冒険小説的なノリもある。さらには主人公の千代丸も、本作においては言動が若さま侍と似ているところも多い(さすがに酒は飲まないが)。面白いことは面白いが、こうなると若殿千代丸シリーズの意義も大きく薄れてしまう。
詳しいところは調べてみないとわからないが、国会図書館のデータで発行年を単純に見てみると、本書の元版が1958年なのに対し、若さま侍の登場は1949年と思われるため、おそらくは若殿千代丸のデビューが後だろう(ただし初出が不明なので断言はできないが)。したがって「悲願折鶴香炉」は作者の筆がつい滑ったか、もしくは、そんなことは端から気にしていなかったかのどちらかとなる。おそらく後者か(笑)。
ちなみに城昌幸には、他にも「若殿」と冠のつく作品がいくつかある。本書と同一シリーズかどうかは読んでみないとわからないが、手元には何冊かあるので、またそのうちチャレンジしてみよう。ただ、若さま侍のように探偵小説っぽいものならいいのだが、丸まる時代小説だとちょっと嫌かも(笑)。
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