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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


久生十蘭『十字街』(朝日文芸文庫)

 明日は人間ドックのため朝6時半には起きなくてはならない。まあ、普通の会社の勤め人には別に珍しい時間でもないのだろうが、自分の業界では朝と夜が遅いため、こういう時間設定は少々辛い。早く寝れば起きることは別に難しくないのだが、どうせいつもどおり2時ぐらいまでは寝れやしないのだ。けっこういい料金をとるのだから、もう少し時間の融通は利かせられないものかね?

 読了本は久生十蘭の『十字街』。
 舞台は新年を迎えたパリ。深夜の地下鉄に乗った貧乏絵描きの日本人青年は、死体を運ぶ不審な二人組を目撃する。それはフランス全土を揺るがした大疑獄事件の幕開けであった……。

 読みどころはやはりパリの姿そのものであろう。パリは文化・芸術の中心として有名なだけでなく、犯罪都市・魔性の都市としての側面も併せ持つ。もちろん当時のパリの雰囲気などこちらは文献等でしか知ることはできないが、それが十蘭の筆にかかると、実際にこんな街だったのだろうと妙に納得してしまう。この辺は『魔都』の東京にも通じるところであろう。
 ただ、物語の背景となる疑獄事件については知識がほとんどなく、恥ずかしながらあまりピンと来なかった。
 といっても物語の大半はそれに巻き込まれた日本人を追って進むので、退屈するようなことはない。相変わらずの名調子で、パリに住む日本人たちの避けられぬ運命、そしてパリ自身の運命に酔わされる。特にミステリアスな前半は一気に引き込まれてしまった。

 しかし残念ながら事件の全貌が見えてくる後半は、やや散漫な印象を受けた。
 理由はいろいろあるが、やはり肝心の疑獄事件にのめり込めないことがひとつ。主人公が一人に固定されていないため、感情移入がしにくいこともある。また、本書は元が新聞連載だったのだが、書籍にまとめる際の改稿が十分でないのか、説明が粗いところもあるように思えた。
 ちなみに「説明が粗い」云々については、本書に収録してある橋本治氏のエッセイがかなり参考になった。氏は十蘭の文章の「速さ」に言及し、問題点を指摘するとともに、それが名文として昇華する仕組みを考察しているのだ。本書で気になった点がすっと溶けていくような名解説で、さすが橋本治である。

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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