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飛鳥高『飛鳥高名作選 犯罪の場』(河出文庫)
河出文庫の本格ミステリコレクションから『飛鳥高名作選 犯罪の場』を読む。かつて刊行された2つの短編集『犯罪の場』(光書房)と『黒い眠り』(小説刊行会)をまとめて収録した上に、単行本未収録の4作を追加したもの。古書価やレア度を考えると、超お買い得の一冊であろう。一応、アンソロジーではいくつか読めるものの、あらためて短編集にまとまる意味は大きいと思う。私もいくつか読んだはずなのだが、ちゃんと覚えているのは「犯罪の場」と「二粒の真珠」ぐらいという情けなさだ。
・『犯罪の場』収録作
「逃げる者」
「二粒の真珠」
「犠牲者」
「金魚の裏切り」
「犯罪の場」
「暗い坂」
・『黒い眠り』収録作
「安らかな眠り」
「こわい眠り」
「疲れた眠り」
「満足せる社長」
「古傷」
「悪魔だけしか知らぬこと」
「みずうみ」
「七十二時間前」
・初収録作
「加多英二の死」
「ある墜落死」
「細すぎた足」
「月を掴む手」
渋いなあ。飛鳥高、予想以上にいい。
飛鳥高は基本的には本格の道を歩んできた人だが、途中から社会派という読み方もされてきたとおり、犯罪が起こった社会の背景や犯罪者の心理などに、けっこう踏み込んだ内容が多い。派手なトリックはそれほど使わない人だから、よけいにその部分が浮き彫りになるのだろう。
ただ、ここが微妙なところだと思うが、社会悪を描いたりとかメッセージ性を打ち出すことに力を入れすぎると別に探偵小説にする必要はなくなるわけで、かといってトリックばかりに走りすぎるとゲーム性が強くなって小説としての味わいは薄れてしまう。
で、飛鳥高だが、彼の作品はそのバランスがかなりいいところで成り立っているのではないか。
もちろんすべての作品が成功しているわけではない。変なトリックもときにはあるし、とってつけたような動機の事件もある。しかしながら、謎解きの面白さだけではない、プラスアルファを常に加えている姿勢に好感が持てるし(作者がどこまで意図していたかは知らないけれど)、それが作品に独自の魅力を与えている。また、『細い赤い糸』の感想でも書いたが、落ち着いたタッチの文章の効果も大きいだろう。おすすめ。
・『犯罪の場』収録作
「逃げる者」
「二粒の真珠」
「犠牲者」
「金魚の裏切り」
「犯罪の場」
「暗い坂」
・『黒い眠り』収録作
「安らかな眠り」
「こわい眠り」
「疲れた眠り」
「満足せる社長」
「古傷」
「悪魔だけしか知らぬこと」
「みずうみ」
「七十二時間前」
・初収録作
「加多英二の死」
「ある墜落死」
「細すぎた足」
「月を掴む手」
渋いなあ。飛鳥高、予想以上にいい。
飛鳥高は基本的には本格の道を歩んできた人だが、途中から社会派という読み方もされてきたとおり、犯罪が起こった社会の背景や犯罪者の心理などに、けっこう踏み込んだ内容が多い。派手なトリックはそれほど使わない人だから、よけいにその部分が浮き彫りになるのだろう。
ただ、ここが微妙なところだと思うが、社会悪を描いたりとかメッセージ性を打ち出すことに力を入れすぎると別に探偵小説にする必要はなくなるわけで、かといってトリックばかりに走りすぎるとゲーム性が強くなって小説としての味わいは薄れてしまう。
で、飛鳥高だが、彼の作品はそのバランスがかなりいいところで成り立っているのではないか。
もちろんすべての作品が成功しているわけではない。変なトリックもときにはあるし、とってつけたような動機の事件もある。しかしながら、謎解きの面白さだけではない、プラスアルファを常に加えている姿勢に好感が持てるし(作者がどこまで意図していたかは知らないけれど)、それが作品に独自の魅力を与えている。また、『細い赤い糸』の感想でも書いたが、落ち着いたタッチの文章の効果も大きいだろう。おすすめ。
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Comments
Edit
読みました。
いや~なんとも充実した短編集ですね。まず編者の方と河出書房に拍手したいです(^o^)/
『細く赤い糸』の時は思いませんでしたが、初期の短編を読むとやっぱりこの人理系なんですね。トリックが理屈っぽいし説明の仕方がわかりづらい気はしましたが、読み慣れてくると後半のそつのない作品より味があると思いました。
あと「戦争に負けた日本人の屈辱感」という精神的背景が犯罪の根底にある話が多く、これは新鮮でした。(天城一もそんなテイストはありましたが、同時代の作品は誰でも多かれ少なかれこういうバックボーンがあるのでしょうか・・?あんまり他の作家読んでないんでわからないですが)
ちょっとした間違いがきっかけで読んだ飛鳥高ですが、まだまだ私が知らない素晴らしい作家がいるのだなぁと思いました(^^;
Posted at 20:01 on 05 11, 2008 by Sphere
Sphereさん
おお、喜んでいただけて幸いです。河出文庫の本格ミステリコレクションは本当にハズレ無しのいいシリーズです。もし読み残しがあれば、ぜひそれらもどうぞ。
ところで戦争体験的なものは、この年代の人であれば、多かれ少なかれ絶対に抱え込んでいるものですし、作家であれば作品に影響するのは当然ありえますよね。ましてや飛鳥高は社会派っぽい作品も著した人ですから。ただ、作者本人が意識して書いていたかどうかは、浅学にしてちょっとわかりません。
Posted at 23:50 on 05 11, 2008 by sugata