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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


久生十蘭『魔都』(現代教養文庫)

 久々の日記。昼も夜も忙しい日が続き、日記どころか読書も進まない。幸い三連休は休みだったが、しっかり仕事はお持ち帰り。おまけに相方が連休中、実家に帰っているため、家事やら犬の世話でなんともかんとも。

 そんななかようやく読み終えたのが久生十蘭の『魔都』。
 舞台は1934年大晦日、新年を数時間後に控えた深夜の帝都、東京。ある弱小新聞社の記者、古市加十が偶然酒場で知り合ったのは、滞日中の安南国の王様であった。誘われるままに王様の愛人が住むアパートへ向かった古市だったが、その愛人が墜落死する現場に遭遇してしまい、しかも王様は謎の失踪を遂げる。真相究明に乗り出したのは警視庁切っての名警視だったが、事件の背後にはさまざまな思惑や陰謀が絡み、帝都を大混乱に陥れてゆく。

 何を今さら的な久生十蘭の代表長編作。文庫にして500ページはあろうかという厚い本だが、物語は大晦日から一月二日にかけて起こったわずか三十時間あまりの出来事でしかない。しかし、その濃密さたるや尋常ではない。
 まず流れるような独特のリズムを持つ文体がいい。さらにはその名調子に乗って語られる怪しい人々の、実に豊かな個性。記者や王様、ヤクザ、名警視に警視総監、愛人、小娘……と印象に残るキャラクターも枚挙にいとまがないほどだ。そして、その人々が織りなす人間模様の数々。裏切りや疑惑、欲望、恋愛、悪意、苦悩……。東京が帝都と呼ばれたその時代の、人々の様々な営みを久生十蘭はぎゅっと圧縮して、目の前にかざしてみせる。この小説の本当の主人公は、まさしく題名どおり、すべてを包括した魔都・東京なのである。
 『魔都』は、表面的には物語の核となる殺人事件も起こるし、警察による捜査も進められていく。展開の複雑さと登場人物の多さに途中、眩惑もされるし、やや中だるみもないではないが、一応は探偵小説といって何の差し支えもないだろう。しかし、その本質はあくまで小説の可能性を追求した芸術である。あるいは、小説の形をとった都市論であり文化論ではないかと思う。さらに思い切っていえば、久生十蘭の思想である。
 本書が、天下の奇書『ドグラ・マグラ』や『黒死館殺人事件』と並んで語られるのもむべなるかな。『魔都』はそれらの作品に負けないだけの力をも持っている。そして最も大事なことだが、読んでいて明快であり、面白いのだ。

 有名どころの短編は一応押さえていたが、それほどいい読者というわけでもなかったので、これを機に、久生十蘭もしばらく読み続けてみよう。あ、森下雨村も読まなきゃいかんというのに。

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Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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