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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


グラディス・ミッチェル『月が昇るとき』(晶文社)

 グラディス・ミッチェルの『月が昇るとき』読了。以前に国書刊行会から出た『ソルトマーシュの殺人』は、「非常にこなれた文章で語られるオフビートな本格」という印象だったが、本作は果たして?

 町にやってきたサーカスの下見に出かけたサイモンとキースの兄弟。だが、二人はその帰り道、ナイフを持った怪しい人影を目撃する。そして翌朝、ナイフで切り裂かれた女性の惨殺死体が発見されたのを皮切りに、町中を震撼させる連続殺人へと発展していった。二人は兄のジャックにかけられた容疑を晴らすため、自分たちの手で事件を解決しようと捜査に乗り出す。

 前作とはかなり趣向は変わっているが、十分満足できる作品。改めてグラディス・ミッチェルの質の高さに感心する。ただし、本格としてどうかといわれると両手を挙げて傑作と評価できるものではない。
 本作の最大の魅力は、謎解きよりも主人公の少年サイモンの描写だ。冒険心に富んではいるが臆病なところもあり、正義感は強いが自己中心的なところもある。優等生でもない、不良でもない。この13歳という時期の少年のなんと不安定なことよ。作者はそんな少年の微妙な心の動き、少しづつ成長する様を、実に見事に描ききっている。
 その結果、事件は少々ストーリーから追いやられた形になり、そこがマイナスでもあるのだが、この不思議な叙情溢れる作品なら、それも致し方あるまい。
 『ソルトマーシュの殺人』には及ばないものの、ちょっと変わった本格を読みたい人はどうぞ。

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Comments

Edit

うわわわわわ、ジョージ、実在の(?)人物でしたか。
てっきりドラマだけの人だと思っていましたが、
失礼いたしました~。

それはそうとブラッドリー夫人、再放送なんですね。
今度は頑張って、できるかぎりチェックしておきたいものです。

Posted at 01:39 on 09 11, 2007  by sugata

Edit

ようやく読みました。ドラマを先に見たので原作は全然違うんだな~と驚きましたが、かなりよかったです。やっぱり語り手のサイモン君が素晴らしい。泥棒する前にお祈りするかどうか真剣に議論する様子などほのぼのしました。事件に関しては「?」という点もありますが、『ソルトマーシュ~』より印象的で個人的にはこちらの方が好きです。
作中に運転手のジョージが登場して、セリフもなくただサイモンたちを送っていくだけの役どころでしたが、ちょっと嬉しくなりました。そういえば今週からミステリチャンネルでブラッドリー夫人再放送なので、この作品に関しては原作との違いを楽しむためにもう一度見てみようと思ってます。

Posted at 21:32 on 09 10, 2007  by Sphere

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Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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