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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


海野十三『海野十三戦争小説傑作集』(中公文庫)

 中央公論新社が頑張っているのか、編者の長山靖生氏が頑張っているのか、ここ数年で思い出したように海野十三の著作が出続けている。『明治・大正・昭和 日米架空戦記集成』や『懐かしい未来』などというアンソロジーも含めれば、かなりの量にのぼるはずだ。詳しいことはわからないが、三一書房の『海野十三全集』に収録されなかった作品を積極的に取りあげているらしく、やがては完全版『海野十三全集』に結びつけば嬉しいかぎり。できれば三一書房版で弱かった探偵小説もまとめてもらいたいものだ。

 そんなわけで、本日の読了本は『海野十三戦争小説傑作集』。タイトルどおり、海野十三の戦記小説を集めた短編集だ。リアルな戦記物は読んでいて辛いが(作品の出来というわけではなく、それらの小説を海野が書いていたという事実に)、それでも戦術や戦略という点では、軍人が考えもつかないようなアイデアを披露するし、ましてやユーモアやSF絡みの戦記小説に至っては、今読んでも十分唸らせるだけのものを持っている。
 特に金博士を主人公としたシリーズは傑作。金博士は国を問わず兵器などの開発を請け負う謎の天才科学者だ。しかし依頼人の注文にはすんなり応ずることがなく、依頼人に手痛いしっぺ返しを見せることで戦争そのものを揶揄する、というスタイルのシリーズなのだ。戦時下の日本において、よくこれらの作品が許されたものだと感心し、同時に海野十三の引き出しの多さにも感動するのである。
 最後に収録作。

「空襲下の国境線」
「東京要塞」
「若き電信兵の最後」
「のろのろ砲弾の驚異」
「アドバルーンの秘密」
「独本土上陸作戦」
「今昔ばなし抱合兵団」
「探偵西へ飛ぶ」
「撃滅」
「防空都市未来記」
「諜報中継局」

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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