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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

葛山二郎『股から覗く』(国書刊行会)

 葛山二郎は法廷ものの トリッキーな短編「赤いペンキを買った女」 で江戸川乱歩らの絶賛を浴び、バラエティーに富んだ作風で知られた作家である。とはいうものの、「バラエティーに富んだ作風」を実感できた人が、過去にどれだけいたことか。
 なぜなら本日の読了本『股から覗く』刊行以前に葛山二郎の著書はなく、アンソロジーでしか作品が読めない状態が長く続いていたからだ。彼の著作数は中短編合わせてわずかに21作。いくつかのアンソロジーに作品が採られたりしているのだが、多くは「赤いペンキを買った女」になってしまい、その他の作品は2、3作がせいぜいだったはず。熱心な本格探偵小説ファンはともかく、たいていは「赤いペンキを買った女」のみの作家と思われていたのではないか。
 『股から覗く』はそんな知られざる作家、葛山二郎の業績をまとめた唯一の書である。十三年前の刊行ではあるが、遅ればせながら国書刊行会と編者の藤原事務所さんに素直に拍手を送りたい。ぱちぱち。

「股から覗く」
「偽の記憶」
「赧顔の商人」
「杭を打つ音」
「赤いペンキを買った女」
「霧の夜道」
「影に聴く瞳」
「染められた男」
「古銭鑑賞家の死」
「蝕春鬼」
「慈善家名簿」

 とりあえず読み終えて最初に思ったのは、「バラエティーに富む」というより、ここまでトリックを重視した本格派だったのかということ。戦前でここまでどんでん返しにも気を配っている作家はそうそういないだろう。一連の花堂弁護士ものは、探偵役の性格の悪さも相まって(笑)インパクトは十分。
 単品ではやはり「赤いペンキを買った女」が頭抜けているが、その後日談「霧の夜道」も悪くない。この二作はぜひ続けて読むべきであり、アンソロジー等でバラで読んでも興味半減だろう。
 あと印象に残るのはノンシリーズの「股から覗く」。肝心のネタが弱いけれど、本格探偵小説としての雰囲気は悪くない。股から覗く、という行為がすべてなので、それを必然として物語に溶け込ませる筆力&構成がお見事。

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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