- Date: Fri 07 01 2005
- Category: 国内作家 蘭郁二郎
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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蘭郁二郎『火星の魔術師』(国書刊行会)
仕事始めは五日だったが、けっこうな勢いで仕事をこなしている。本日も朝までモードで組織再編だとか予算見直しだとか原稿チェックだとか。会社立ち上げ時のメンバーなので、一応けっこうなポジションには就いているのだが、要は何でも屋に近い。編集一本でやっていた頃がやっぱ楽しかったなぁ。
そんなわけで休み中も仕事が始まってもなかなか読書が進まず、昨年末から読みかけていた蘭郁二郎の『火星の魔術師』をやっと読み終える。収録作品は以下のとおり。
「夢鬼」
「歪んだ夢」
「魔像」
「虻の囁き」
「白金神経の少女」
「睡魔」
「地図にない島」
「火星の魔術師」
「宇宙爆撃」
蘭郁二郎と言えば海野十三を師と仰いでいただけのことはあって、SF系の作品で知られており、海野と並んで日本SFの創始者として語られることも多い作家だ。その豊かなイマジネーションで若くしてデビューし、一気に人気作家になった人物だが、その死もまた早く、何と三十歳で戦死している。
だが、当時の人気を示すかのごとく、執筆年数に比べて著作数は意外に多い。そのくせ現在入手可能なのは、本書とちくま文庫『蘭郁二郎集 魔像』のみ。古書にしても比較的目にするのはかつて桃源社から出た『地底大陸』ぐらいだろう。いや、目録やネットで探せばあることはあるのだが、軒並みン万円〜ン十万円という凄まじい古書価がついている。知る人ぞ知る作家、というのが現在での評価、といったところなのだろう。
ただ、作品のレベルは決して低いわけではない。個人的には海野つながりでどうしても読んでおきたかった作家ではあるが、今まではアンソロジーで数編を読んでいた程度。まとまったものを読むのはこれが初めてだったのだが、予想以上の面白さである。これは師・海野に勝るとも劣らない。
まず驚いたのが、SF系だけではなく、初期には乱歩や正史ばりの幻想小説を書いている点だ。本書では「夢鬼」「歪んだ夢」「魔像」「虻の囁き」がそうだが、設定の妙と語り口の巧さは見事。これを二十代で書いているところが恐れ入る。
もちろんSF系の作品も素晴らしい。奇想、という点に絞れば、師・海野に一歩譲るが、科学的という点で見れば、師を越えているといってよい。特に「宇宙爆撃」は原爆の恐怖に早くから着目している点でも、蘭郁二郎のセンスがうかがえる。残念なのは——これは海野と共通しているところだが——あまりに軍国主義が強すぎる。もちろん書かれた時代ゆえに致し方ないところもあるのだが、今読むとさすがに薄ら寒いものを感じるのも事実だ。現代では読まれなくなった理由も、たぶんこの辺にあるのだろう。
とはいえ、読めば読むほどにつくづく夭折が惜しまれる作家である。読めない作品はまだまだあるので、論創社や出版芸術社あたりで出してもらえないものだろうか?
そんなわけで休み中も仕事が始まってもなかなか読書が進まず、昨年末から読みかけていた蘭郁二郎の『火星の魔術師』をやっと読み終える。収録作品は以下のとおり。
「夢鬼」
「歪んだ夢」
「魔像」
「虻の囁き」
「白金神経の少女」
「睡魔」
「地図にない島」
「火星の魔術師」
「宇宙爆撃」
蘭郁二郎と言えば海野十三を師と仰いでいただけのことはあって、SF系の作品で知られており、海野と並んで日本SFの創始者として語られることも多い作家だ。その豊かなイマジネーションで若くしてデビューし、一気に人気作家になった人物だが、その死もまた早く、何と三十歳で戦死している。
だが、当時の人気を示すかのごとく、執筆年数に比べて著作数は意外に多い。そのくせ現在入手可能なのは、本書とちくま文庫『蘭郁二郎集 魔像』のみ。古書にしても比較的目にするのはかつて桃源社から出た『地底大陸』ぐらいだろう。いや、目録やネットで探せばあることはあるのだが、軒並みン万円〜ン十万円という凄まじい古書価がついている。知る人ぞ知る作家、というのが現在での評価、といったところなのだろう。
ただ、作品のレベルは決して低いわけではない。個人的には海野つながりでどうしても読んでおきたかった作家ではあるが、今まではアンソロジーで数編を読んでいた程度。まとまったものを読むのはこれが初めてだったのだが、予想以上の面白さである。これは師・海野に勝るとも劣らない。
まず驚いたのが、SF系だけではなく、初期には乱歩や正史ばりの幻想小説を書いている点だ。本書では「夢鬼」「歪んだ夢」「魔像」「虻の囁き」がそうだが、設定の妙と語り口の巧さは見事。これを二十代で書いているところが恐れ入る。
もちろんSF系の作品も素晴らしい。奇想、という点に絞れば、師・海野に一歩譲るが、科学的という点で見れば、師を越えているといってよい。特に「宇宙爆撃」は原爆の恐怖に早くから着目している点でも、蘭郁二郎のセンスがうかがえる。残念なのは——これは海野と共通しているところだが——あまりに軍国主義が強すぎる。もちろん書かれた時代ゆえに致し方ないところもあるのだが、今読むとさすがに薄ら寒いものを感じるのも事実だ。現代では読まれなくなった理由も、たぶんこの辺にあるのだろう。
とはいえ、読めば読むほどにつくづく夭折が惜しまれる作家である。読めない作品はまだまだあるので、論創社や出版芸術社あたりで出してもらえないものだろうか?
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