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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

石沢英太郎、他『博多ミステリー傑作選』(河出文庫)

 仕事納め。会社の大掃除を午後2時頃までに終わらせ、残りは納会……なんてことはなく通常業務を引き続き行う。休暇は1週間あるが、その間に出勤する人間も多く、零細企業の辛いところである。

 読了本は河出文庫の『博多ミステリー傑作選』。まずは収録作から。

夏樹静子「断崖からの声」
小林久三「赤い蛇」
夢野久作「空飛ぶパラソル」
夢座海二「どんたく囃子」
大貫進「死の配達夫」
久丸修「殺意を呼ぶ映像」
石沢英太郎「福岡・親不孝殺人事件」

 一見すると気軽に読めるトラベルミステリー・アンソロジーだが、これはなかなかハイレベル。夢野久作は別格としても、その他の作品も粒ぞろいだ。とりわけ夢座海二の「どんたく囃子」は、主人公が幼かった頃に関係した事件を溯ってゆく過程が抒情豊かに描かれた佳作。博多が舞台であることの必然性も備えている点もよい。トラベル・ミステリーと銘打っておきながら、ただ観光名所を描写するだけで、舞台を余所に移しても成り立つような小説も少なくない。そういう意味でも「どんたく囃子」は、トラベルミステリーのお手本になるような作品であろう。
 他には、大貫進や久丸修といったマイナー作家の作品も悪くなかった。大貫進の「死の配達夫」は、家の購入資金のために殺人を犯す決意をする主婦の心理を描き、その生々しさが秀逸。久丸修の「殺意を呼ぶ映像」は、失踪した同僚の行方を追うテレビマンの話だが、ラストのひねりが見事に決まっている。今ではそれほど驚くようなオチでもないが、変にどんでん返しを繰り返す昨今のミステリーよりは、本作のように一発でピシッと決めてくれた方がかえって好印象だと思う。

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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