- Date: Sun 26 12 2004
- Category: 海外作家 キング(C・デイリー)
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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C・デイリー・キング『鉄路のオベリスト』(光文社)
世間のミステリマニアはC・デイリー・キングの『海のオベリスト』なのだろうが、こちらは『鉄路のオベリスト』読了。EQ連載時にリアルタイムで読んではいたが、そのときは隔月で読んでいたためいまひとつ印象が不鮮明だった。そこで『海のオベリスト』刊行を機に読み直そうと思った次第。ただ、今回読んだのは雑誌ではなく、後にまとめられたカッパ・ノベルス版である。
ニューヨーク-サンフランシスコ間を三日間で駆け抜けるという「トランスコンチネンタル特急」。プールや美容院まで備えられたその夢の大陸横断列車が、ついに初運行の日を迎えることになった。盛大なる式典が催され、列車は各界の著名人を乗せて一路サンフランシスコへ向かう。しかし、翌日、大物の銀行頭取がプールで溺死体となって発見されるという事態が起こる……。
今回あらためて感じたのは、強引なトリックや馬鹿げた犯人のミスなど、本格としてみた場合の瑕疵がいくつもあって、やはり「傑作」とおすすめできるほどの作品ではなかったということ。
しかしながら、それだけでは済ませられない魅力があることも、また確か。例えば、発車を前に主要人物たちが続々と集まるオープニングの雰囲気。あるいは豪華列車という閉ざされた舞台設定。そのくせ意外なほどテンポのよいストーリー展開。さらには心理学などをもとにした丁々発止の推理合戦。そして何といっても巻末に設けられた「手がかり索引」。本格探偵小説好きを思わずニヤリとさせる数々の工夫や道具立てが実に心憎い。
残念なのは、これだけの道具立てをもってしても、結局は傑作と呼ばれる水準には達していないことだ。本格好きで、かつ大抵の名作は読了済み、という条件付きでのオススメというところか。同じ年、クリスティが同じような趣向で『オリエント急行の殺人』を発表しているが、ここまで後世に評価の差が出るとは、ご本人たちも夢にも思わなかったに違いない。
ちなみに連載時と異なり、カッパ・ノベルス版は冗長な心理学や経済学に関する描写の部分を削った抄訳らしい。確かに本作における学者たちの長セリフはかなりつまらんとは思う。
だが、正直、これはやってほしくなかったことだ。基本的にはその作品において必要だろうが不要だろうが、抄訳は望ましいことではない。たとえその作品の質が結果的に上がったとしても、オリジナルを読めないことには意味がないではないか。それなら原書で読めよ、というツッコミはなしね。編集者や翻訳者には、出来うる限り、オリジナルに近いものを提供する義務がある。創作物を第三者の主観でアレンジしていては、文化や芸術の拠り所をどこに求めればよい? 超訳が許せないのも、そこに尽きるのだ。
ニューヨーク-サンフランシスコ間を三日間で駆け抜けるという「トランスコンチネンタル特急」。プールや美容院まで備えられたその夢の大陸横断列車が、ついに初運行の日を迎えることになった。盛大なる式典が催され、列車は各界の著名人を乗せて一路サンフランシスコへ向かう。しかし、翌日、大物の銀行頭取がプールで溺死体となって発見されるという事態が起こる……。
今回あらためて感じたのは、強引なトリックや馬鹿げた犯人のミスなど、本格としてみた場合の瑕疵がいくつもあって、やはり「傑作」とおすすめできるほどの作品ではなかったということ。
しかしながら、それだけでは済ませられない魅力があることも、また確か。例えば、発車を前に主要人物たちが続々と集まるオープニングの雰囲気。あるいは豪華列車という閉ざされた舞台設定。そのくせ意外なほどテンポのよいストーリー展開。さらには心理学などをもとにした丁々発止の推理合戦。そして何といっても巻末に設けられた「手がかり索引」。本格探偵小説好きを思わずニヤリとさせる数々の工夫や道具立てが実に心憎い。
残念なのは、これだけの道具立てをもってしても、結局は傑作と呼ばれる水準には達していないことだ。本格好きで、かつ大抵の名作は読了済み、という条件付きでのオススメというところか。同じ年、クリスティが同じような趣向で『オリエント急行の殺人』を発表しているが、ここまで後世に評価の差が出るとは、ご本人たちも夢にも思わなかったに違いない。
ちなみに連載時と異なり、カッパ・ノベルス版は冗長な心理学や経済学に関する描写の部分を削った抄訳らしい。確かに本作における学者たちの長セリフはかなりつまらんとは思う。
だが、正直、これはやってほしくなかったことだ。基本的にはその作品において必要だろうが不要だろうが、抄訳は望ましいことではない。たとえその作品の質が結果的に上がったとしても、オリジナルを読めないことには意味がないではないか。それなら原書で読めよ、というツッコミはなしね。編集者や翻訳者には、出来うる限り、オリジナルに近いものを提供する義務がある。創作物を第三者の主観でアレンジしていては、文化や芸術の拠り所をどこに求めればよい? 超訳が許せないのも、そこに尽きるのだ。
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