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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


角田喜久雄『奇蹟のボレロ』(国書刊行会)

 前日は会社の若い連中と飲み会。新宿でボーリングやカラオケをはさみつつ、結局朝帰りだったので、本日はさすがにぐったり。夕方頃にかなり復調して、今度は相方のバースデイということでイタリアンレストラン。この歳でのスケジュールとしてはちょっと辛い(苦笑)。

 読了本は角田喜久雄の国書刊行会版の『奇蹟のボレロ』。表題の長篇に加賀美敬介捜査一課長ものの全短編を加えた、いわば加賀美全集である(ただし『高木家の惨劇』だけは入っておりません)。収録作は以下のとおり。
「緑亭の首吊男」
「怪奇を抱く壁」
「霊魂の足」
「Yの悲劇」
「髭を描く鬼」
「黄髪の女」
「五人の子供」
「奇蹟のボレロ」

 加賀美捜査一課長シリーズは、基本的に本格探偵小説ということで知られているシリーズである。だが角田喜久雄自体は加賀美シリーズをメグレ警視のスタイルでまとめており、謎の興味だけでなく、人間ドラマとしてもかなりのコクを併せ持っているのが大きな特徴だ。
 文章もシムノンを意識しているそうで、やや時代がかってはいるが基本的には短めのセンテンスと硬めの文体で仕上げている。先日、メグレものを読んだばかりなのでまだ記憶に新しいのだが、確かに印象はかなり近いように感じられる。

 加賀美シリーズのもうひとつの特徴として上げておきたいのは、ストーリーや謎の設定がけっこう「奇妙な味」寄りなところ。ともすると地味になりがちな加賀美シリーズが、一風変わった舞台設定によって、より魅力的になっていることは間違いない。
 例えば「奇蹟のボレロ」では楽団そのものの死を新聞広告によって予告するという奇妙な予告殺人、「髭を描く鬼」では死体に描かれた髭の謎。これは本格における遊び心にも通じている。

 これらのさまざまな魅力が、高いレベルで結実しているのが加賀美シリーズである。過去の日記でも書いていることだが、角田喜久雄の作品には当たりはずれのムラが少ないのが素晴らしい。加賀美シリーズはほぼ全編本格で押しているシリーズなので、トリック等によって若干ばらつきはあるものの、それでもこのレベル。一度は読んでおきたい作品集だ。

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Comments

Edit

kanamoriさん

ありがとうございますありがとうございます。
評価が似ているということは、とりもなおさず読書傾向も似ているということでしょうか。拙い文章ではありますが、気に入っていただければ幸いです。

ところで角田喜久雄は私もかなり好きな作家ですが、探偵小説ばかりで、実は歴史伝奇ものはほぼ読んでいません。名作と言われる『髑髏銭』『妖棋伝』あたりから、とは思っていたのですが。
本格風味もあるとなると、『影丸極道帖』も見逃すわけにはいきませんね。また、オススメなどありましたらよろしくお願いします。

Posted at 00:48 on 10 23, 2009  by sugata

Edit

影丸極道帖

最近この「探偵小説三昧」を見つけました。
各書評に感心し、その日のうちに2002年の書き込み
までさかのぼって読ませていただきました。
既読本の評価が私の思っていたのとほとんど一致し
なんだか親近感をいだいてしまいます。
そうそう、角田喜久雄ですが「影丸極道帖」がスゴイ
ですよ、伝記時代小説+本格ミステリのテイストで
私的にはストライクの徹夜本でした。

Posted at 01:37 on 10 22, 2009  by kanamori

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Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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