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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

ロバート・B・パーカー『束縛』(ハヤカワ文庫)

 会社で年末調整の準備やら年賀状の準備やら。通常業務に加えて、年末業務がいろいろと重なってきて慌ただしい。

 ロバート・B・パーカー『束縛』読了。スペンサーものではなく女性私立探偵サニー・ランドルを主人公にしたシリーズ第三作である。
 今回のサニーの仕事はボディガードだ。ロマンス系の超売れっ子作家メラニーが、全米をまわるサイン会を行うことになる。しかし実はメラニーは離婚した夫から尾け回されており、精神的にも追いつめられている状態だった。サニーはその護衛を請け負うわけだが、相手がただのストーカーではないことを知り、その裏に隠された卑劣な犯罪をも暴こうとする。

 ううむ。最近のパーカー作品のなかでは久々にいいのではないか(といってもそれほど新しい作品ではないが)。正直、このところは義務的というか惰性で読んでいる感じだったが、本作なかなか読み応えがある。
 事件そのものは相変わらず大したことはない。犯人は最初からわかっているし、犯行もだいたい予測できるレベルのもので、そういう点での驚きはない。読みどころはなんといっても登場人物たちの人間模様だ。著者の主義主張はどの作品においても常に不動ではあるが、本作では行動や心理が丁寧に描写されているので、その説得力がいつも以上に高い。
 特に主人公サニーが出した結論は、紆余曲折を経て、葛藤の末に導き出したものであるから、非常に好感をもつことができる。共感ではない、あくまで好感。まあ、その主張に全面的には賛成できないけれど、それだけ考えたんなら頑張ってやってみてよ、という感じか。
 そこにはエキセントリックに自分だけの意見を押し通していくエゴの塊のような女性探偵はいない。自分の内面をしっかりと見つめ、友人たちとも意見を交わす。そのうえで突っ走るから美しいのだ。
 ただ、パーカー自身の主義が根底にあるのは間違いないので、サニーのこの生き方が女性読者に受け入れられるのかどうか。興味深いところではある。

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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