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デイヴィッド・イーリイ『観光旅行』(ハヤカワ文庫)
奇妙な味の短編で知られるデイヴィッド・イーリイ。『ヨット・クラブ』の好評により、かつて発行された長編が文庫落ちすることになったらしく、その第一弾が『観光旅行』だ。ちょうど先月にはポケミスの『憲兵トロットの汚名』『蒸発』も読んでおり、これだけ未所持だったので、ちょうどいいタイミング。
バナナ共和国と呼ばれる南米の小国で、口コミだけで客を集めているという、ある観光ツアーがあった。基本的には一人での参加しか認められないそのツアーは、通常の旅行に飽きた、いや人生そのものにすら飽きた人のための秘密ツアーである。壮年に差し掛かろうかという実業家ウォルターもツアーに参加した一人だったが、その道中でアメリカ大使館の外交官から、その観光会社に不審な動きがないかどうか、内密に調査を依頼される……。
もうひとつ消化不良な感のある作品。出だしこそ観光旅行がツアー客を満足させるための秘密に興味を惹かれるが、中盤では巻き込まれ型スパイ小説の様相を呈し、ラストはもうドタバタといっていいほどの混乱振り。これが著者の狙いなのかどうかも判然としない始末。また、基本的に描写がしつこいのも気になる。詳しいのではなく、しつこいのだ。そのためボリュームは膨れあがるものの満腹感は低い。
不条理な状況を生みだして読者を眩惑させるなら、『蒸発』のように短く鮮やかにまとめるのが理想だろう。ただし『蒸発』にしても、構成に関していえばそれほど優れているとはいえない。とはいえ、「イーリイはやはり短編向きの作家であるのだろう」、などという、いかにもな感想も当たらない気がする。
ならば本作は、イーリイ流の寓話だという捉え方はできないだろうか? 通常よりカリカチュアされた登場人物たち、ねじ曲がったストーリー展開は、そういう意味でなら理解できる。ただし賞賛できるほどの結果は生んでいないが。
なお、本書を読んでいる間、なんとなく初期の筒井康隆を思い出してしまった。しかし、そのブラックな笑いやカリカチュアのパワーを比較すると、少なくとも本書よりは筒井康隆の方が明らかに上である。
バナナ共和国と呼ばれる南米の小国で、口コミだけで客を集めているという、ある観光ツアーがあった。基本的には一人での参加しか認められないそのツアーは、通常の旅行に飽きた、いや人生そのものにすら飽きた人のための秘密ツアーである。壮年に差し掛かろうかという実業家ウォルターもツアーに参加した一人だったが、その道中でアメリカ大使館の外交官から、その観光会社に不審な動きがないかどうか、内密に調査を依頼される……。
もうひとつ消化不良な感のある作品。出だしこそ観光旅行がツアー客を満足させるための秘密に興味を惹かれるが、中盤では巻き込まれ型スパイ小説の様相を呈し、ラストはもうドタバタといっていいほどの混乱振り。これが著者の狙いなのかどうかも判然としない始末。また、基本的に描写がしつこいのも気になる。詳しいのではなく、しつこいのだ。そのためボリュームは膨れあがるものの満腹感は低い。
不条理な状況を生みだして読者を眩惑させるなら、『蒸発』のように短く鮮やかにまとめるのが理想だろう。ただし『蒸発』にしても、構成に関していえばそれほど優れているとはいえない。とはいえ、「イーリイはやはり短編向きの作家であるのだろう」、などという、いかにもな感想も当たらない気がする。
ならば本作は、イーリイ流の寓話だという捉え方はできないだろうか? 通常よりカリカチュアされた登場人物たち、ねじ曲がったストーリー展開は、そういう意味でなら理解できる。ただし賞賛できるほどの結果は生んでいないが。
なお、本書を読んでいる間、なんとなく初期の筒井康隆を思い出してしまった。しかし、そのブラックな笑いやカリカチュアのパワーを比較すると、少なくとも本書よりは筒井康隆の方が明らかに上である。
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