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ロナルド・A・ノックス『閘門の足跡』(新樹社)
最近、就寝前に読んでいるのが、アルベルト・マングェル『読書の歴史:あるいは読者の歴史』(柏書房)という本。読書と読者の歴史を古今東西の大量の文献や図版とともにつづり、本を読むという行為の在りようを考える内容で、知的興奮という言葉を久々に実感する。かなりレベルが高いのでついていくのも大変だが、面白いネタも豊富だ。
例えば今読んでいるところでは、なぜ人は物を視ることができるのかという科学的解釈の歴史について書かれている。なんと紀元前には物質から発せられる粒子が大気中を通して目に届き、それを体内の神経が認識するのだという考えと、脳から精神神経を通過して眼からレーザーのようなものが物質に照射して認識するのだという意見が対立していたらしい。また、一方では、人類の歴史において読書が行われ始めた最初期、読書といえば朗読が基本だったという話もある。だから図書館は大変騒がしかったとか(笑)。
自分たちが日頃没頭している行為にどのような意味があるのか。こういう本でたまには考えてみるのも面白い。とはいえ何せレベルが高く、分厚い本である。いつ読了できるか見当もつかないが、感想はいずれまた。
復活なった新樹社の本格探偵小説シリーズ(正式な叢書名ってあったっけ?)から、ロナルド・A・ノックスの『閘門の足跡』読了。とりあえず「閘門(こうもん)」という言葉を覚えただけでも収穫なわけだが、さすがにそれだけでは悲しいので、少し感想など。
ストーリーはシンプル。いがみあう二人のいとこがテムズ川をボートで下ることになったが、途中の閘門で一人がボートを降り、残る一人はその行方が知れなくなる。ただの事故なのか、それとも事件なのか? というお話し。
なにせ本格探偵小説のルールを定めた「十戒」やひねくれた本格『陸橋殺人事件』で有名なノックスの作品である。読んでいる間はどんな手で来るのだろうという変な先入観ばかりが先に立ち、知らず知らず伏線にばかり目がいったり、裏読みしすぎてしまう。
で、実際の話、それに応えるだけの伏線も多く、周到な構成のもとに本書が書かれていることに気づく。そういう意味ではストレートな本格であり、『陸橋殺人事件』よりは素直に読めるし、出来そのものも上だと思う。
しかし、パロディとは言えないけれども、本格探偵小説が抱えるゲーム性の善し悪しについてはやはり考えさせられる。もちろん著者がノックスということもあるのだが、本格探偵小説の抱えるゲーム性については、常に長所と短所が表裏一体なのだということを感じずにはいられない。本格探偵小説であるかぎり、それは免れない宿命みたいなものだ。だが傑作と呼ばれる作品には、ゲーム性が強くともそれを読み手に意識させない何かがある。そういう意味では『閘門の足跡』も悪くはないが、手放しでは誉めにくいのだ。微妙。
例えば今読んでいるところでは、なぜ人は物を視ることができるのかという科学的解釈の歴史について書かれている。なんと紀元前には物質から発せられる粒子が大気中を通して目に届き、それを体内の神経が認識するのだという考えと、脳から精神神経を通過して眼からレーザーのようなものが物質に照射して認識するのだという意見が対立していたらしい。また、一方では、人類の歴史において読書が行われ始めた最初期、読書といえば朗読が基本だったという話もある。だから図書館は大変騒がしかったとか(笑)。
自分たちが日頃没頭している行為にどのような意味があるのか。こういう本でたまには考えてみるのも面白い。とはいえ何せレベルが高く、分厚い本である。いつ読了できるか見当もつかないが、感想はいずれまた。
復活なった新樹社の本格探偵小説シリーズ(正式な叢書名ってあったっけ?)から、ロナルド・A・ノックスの『閘門の足跡』読了。とりあえず「閘門(こうもん)」という言葉を覚えただけでも収穫なわけだが、さすがにそれだけでは悲しいので、少し感想など。
ストーリーはシンプル。いがみあう二人のいとこがテムズ川をボートで下ることになったが、途中の閘門で一人がボートを降り、残る一人はその行方が知れなくなる。ただの事故なのか、それとも事件なのか? というお話し。
なにせ本格探偵小説のルールを定めた「十戒」やひねくれた本格『陸橋殺人事件』で有名なノックスの作品である。読んでいる間はどんな手で来るのだろうという変な先入観ばかりが先に立ち、知らず知らず伏線にばかり目がいったり、裏読みしすぎてしまう。
で、実際の話、それに応えるだけの伏線も多く、周到な構成のもとに本書が書かれていることに気づく。そういう意味ではストレートな本格であり、『陸橋殺人事件』よりは素直に読めるし、出来そのものも上だと思う。
しかし、パロディとは言えないけれども、本格探偵小説が抱えるゲーム性の善し悪しについてはやはり考えさせられる。もちろん著者がノックスということもあるのだが、本格探偵小説の抱えるゲーム性については、常に長所と短所が表裏一体なのだということを感じずにはいられない。本格探偵小説であるかぎり、それは免れない宿命みたいなものだ。だが傑作と呼ばれる作品には、ゲーム性が強くともそれを読み手に意識させない何かがある。そういう意味では『閘門の足跡』も悪くはないが、手放しでは誉めにくいのだ。微妙。
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