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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


城昌幸『月光の門 若さま侍捕物手帖』(講談社ロマンブックス)

 DVDレンタル。ヴァージニア・ウルフの『ダロウェイ夫人』をモチーフにした『めぐりあう時間たち』を観る。
 まさに『ダロウェイ夫人』を執筆中のヴァージニア・ウルフ、1951年のロサンゼルスで『ダロウェイ夫人』を愛読する主婦、現代のニューヨークでダロウェイ夫人さながらの生き方をする女性編集者という、別々の場所、別々の時代に生きる三人の女性の一日を交錯させて描いた作品。各時代の状況を把握するのに手こずるが、いったん作品世界に没入できれば、あとはただ流れに身を任せるばかり。女性の人生や死という重いテーマ、構成の巧みさ、見事な演技、美しい映像。どれをとっても高水準であり、実にまっとうな映画である。

 読了本は城昌幸の『月光の門 若さま侍捕物手帖』。
 巷で暗躍する修験道の行者たち。彼らのゆくところ美女の消失事件が発生し、江戸の町は不安に包まれていた。その事件をネタに一儲けを企む輩も現れ、そして将軍家の綾姫までが誘拐されるにおよんで、ついに事件を解決すべく、若さまに白羽の矢がたった。行者、三人の美女、綾姫、素浪人、やくざ……さまざまな人間模様が複雑に入り乱れ、その背後には謎の秘密組織の姿が浮かびあがる。

 若さま侍の長編を読むときにいつも気になるのは、スーパーナチュラルの要素が入っているかどうかである。そもそも短編は推理小説寄りの作品が多いのに、なぜ長編では伝奇小説が多くなるのか、これも不思議な話ではある。それでも事前に知っていれば特に問題もないのだが、途中で気づいたときのショックは計り知れない。それはそうでしょう。こちらは合理的な謎解きを期待しているのに、それが超能力で解決された日には。

 で、『月光の門』だが、本作は裏表紙のあらすじ紹介に伝奇小説らしきことを匂わせているため、とりあえずは安心して読むことができた。
 そして肝心の出来はといえば、十分満足できるレベルである。
 まずは構成が巧み。前半は誘拐された三人の美女を中心に物語が流れていく。彼女たちがそれぞれ個性的なうえに、それを取り巻く状況もばらばら。一度に三つのストーリーが平行して流れるという趣向なのだ。中盤からは若さまが事件に乗り込むが、同時にそれまでの物語がひとつの流れに集束してゆき、事件の背景も明らかになってゆく。
 登場人物も魅力的である。彼らのいきいきとした会話や行動が物語をより豊かにしているのは言うまでもないが、美女たちもさることながら、行者や素浪人などの小悪党たちがなんともいえずいい味を出している。根っからの悪人というのがほとんどおらず、口当たりもすこぶるよい。

 ただ、気になる点もないではない。例えば肝心の秘密組織の正体はやや説明不足で、伝奇小説としてもかなり強引すぎるといえるだろう。
 また、話がでかくなるほど若さまの存在が弱くなってしまうのもさびしい限り。やはり最後は若さまの活躍で締めてもらいたいものだが。まあ、それでもエンターテインメントとしてここまでまとめてくれれば、基本的には言うことなし。
 時代小説のファン、伝奇小説のファンどちらにもおすすめできる佳作といえるだろう。

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Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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