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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


岡田鯱彦『薫大将と匂の宮』(国書刊行会)

 仕事納め。いろいろと心残りなところもあり、基本的にもうひとつ走れない一年という感じ。来年は頑張らねば……などと考えながら今年最後の仕事を朝までやってしまう。

 読了本は岡田鯱彦の『薫大将と匂の宮』。国書刊行会版の本書では長篇『薫大将と匂いの宮』の他、短編「妖鬼の呪言」「噴火口上の殺人」を収録。今では扶桑社ミステリー版があるので手軽に読めるようになったが、少し前までは『薫大将と匂の宮』といえば入手困難な一冊であり、国書刊行会版が出たときはずいぶん感激したものである。まあ、そのくせ今まで読まずにいたわけだが(苦笑)。

 平安の世に宮中の人気を二分する二人の男がいた。一人は女性を虜にするほどの得も言われぬ体臭を発する薫大将。もう一人は香を自在に調合し、やはり美しい香りを身にまとう匂いの宮。しかし、二人の恋のさや当てが、ついには殺人という悲劇を呼ぶ。さらにはその謎をめぐって対決するのは、希代の才女、清少納言と紫式部の二人であった。

 もう設定の勝利である。源氏物語の続編という体裁で、二人の匂いの天才を軸に殺人劇を語るだけでもかなりのものだと思うが、そこに清少納言と紫式部の二人に推理合戦をさせるのである。本作の肝はこの徹底したけれんだ。扱う時代が時代だけにトリックとか言ったものは弱いけれど、設定をうまく活かした謎解きは面白く、意外な読みやすさも高ポイント。とにかくこの世界観で本格を成立させた著者の手腕を称えるべきであろう。


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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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