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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

津本陽、他『紀州ミステリー傑作選』(河出文庫)

 河出文庫の御当地ミステリー集から『紀州ミステリー傑作選』を読了。
 紀州については未だ訪ねたこともないが、大学時代の友人に和歌山出身の連中が多く、話自体はいろいろ聞いており、その後は中上健次の著作で特殊なイメージ(笑)だけは持っている。
 それらは本書の序文で津本陽が書いているような明るい軽はずみな気質、というのとはまた別の種類のもので、意外に粘着質なところがあるのではないか、とも感じている。まあ、完全に個人的なイメージなので、和歌山県の人、間違っていたらごめんなさい。

津本陽「明るい風土」(序文)
笹沢左保「純愛碑」
宮脇俊三「殺意の風景」
蒼井雄「黒潮殺人事件」
西村寿行「痩牛鬼」
岡田義之「夜の吊橋」
黒岩重吾「墓地の俳優」
津本陽「財布の行方」

 収録作は以上のとおり。ミステリ色の強い作品は少なく、蒼井雄の「黒潮殺人事件」はダントツに本格だが、その他はどちらかというと人に焦点を絞った佳作が多い。笹沢左保の「純愛碑」、宮脇俊三「殺意の風景」、西村寿行「痩牛鬼」、岡田義之「夜の吊橋」などは正にその典型で、事件と呼ぶほどでもない些細な出来事なのに、強烈な印象を与えることに成功している。
 特に西村寿行の「痩牛鬼」は絶品。エロスとバイオレンスのみ注目される西村寿行だが、そもそもデビュー時は社会派であり、加えて動物文学の第一人者という一面も持つ。そのあまり知られざる面を理解するには格好の一篇。

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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