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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

海野十三『火星兵団』(桃源社)

 なんだか最近物忘れが多い。二、三日前の日記を書こうと思っても、いったい何をやっていたのか完璧に記憶が落ちていることが多く、手帳を見て何とか思い出す始末である。まあ、本の場合、その方が再読がきいて良いという話もあるが、あまり洒落にはならんなぁ。たんに歳をとっただけのことならいいのだが。

 読了本は海野十三の『火星兵団』。タイトルからも想像できるように、本書は火星人の地球侵略を描いた作品である。だが実はもうひとつ、巨大彗星の地球衝突という大きな軸がある。このとんでもない二大ピンチを地球人はいかにして解決するのか、見所はまさにそこにある。

 本書はもともと1939年から1940年にかけ、大毎小学生新聞と東日小学生新聞で連載されたものだ。海野お得意の、戦争の影響を色濃く反映したジュヴナイルというわけで、例によって国威高揚ものといってはそれまでだが(しかも巻頭にはご丁寧に海野自身の言葉で、その旨をはっきり謳っている)、長期連載の大作ながら意外なほどストーリーに破綻が無く、実にまとまった出来となっている。徐々に明らかになる火星人の意外な秘密、その対応策、クライマックスにかけての盛り上がり、複数の主人公によるカットバック的手法などなど、新聞の連載とは思えないほど考えぬかれた構成で、思いのほか楽しく読めた。
 同じような話でも『地球盗難』などはもうひとつこなれていない印象だったが、本書は『浮かぶ飛行島』と並ぶジュヴナイルの佳作といえるだろう。当時の科学知識やら日本人の意識など、もちろん今読めばトホホなところも多いのだが、これだけの大風呂敷を広げられる作家が、当時の日本人にどれだけいたことか。
 ただ、欠点もないではない(というかかなりでかい欠点だが)。肝心の巨大彗星の解決がかなり適当なのである。これさえなければ傑作といえたのに、誠に残念。

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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